症状が落ち着き、自宅での生活に戻った患者さん。
住み慣れた自宅なはずなのに、疾患や障害と共に生きていくにはサポートが必要になりました。
そこに寄り添うのが、病棟勤務を6年務めた看護師の岩本さん(仮名)です。
「もっと患者さんやご家族と近い距離で関わりたい」ーそんな思いで訪問看護ステーションへ転職しました。
本記事では、在宅で過ごす患者さんに対し訪問看護師ができることは何か、病院との違いにも触れながら、インタビュー形式で紹介していきます。
目次
病棟から訪問看護へ転職した理由ときっかけ
岩本さん(仮名) 女性 病棟勤務6年目
インタビュアー
本日はお時間をいただきありがとうございます。岩本さんは病棟勤務から訪問看護師へ転職されたんですね。
訪問看護の道に進もうと思ったきっかけがあれば教えてください。
岩本さん
病棟勤務をしていた時、「早く家に帰りたい」と願う患者さんを多く見てきました。
しかし、疾患や障害を持つ患者さんが自宅で過ごすというのは、簡単なことではありません。ご本人だけでなく、ご家族にとっても、とても勇気のいることであり、周りのサポートが必要不可欠です。
そんな在宅生活に、看護師として介入できることは何か見てみたいと思ったことがきっかけです。
病院併設型と訪問看護ステーションの特徴
インタビュアー
一言に訪問看護といっても、病院が運営する訪問看護と、訪問看護ステーションがありますが、大きな違いは何ですか?
岩本さん
病院併設型は、主治医がそのままかかりつけ医となることが多く、入院中から退院後、仮に再入院になった際も継続して関わることができ、連携も取りやすいです。
訪問看護ステーションは、場所に関わらず対応でき、生活支援や介護サービスとの連携が柔軟です。
私は様々な患者さんを見たいと思い、また、多職種との連携についても学びたかったので、地域密着型の訪問看護ステーションを選びました。
「病院」と「訪問看護」で感じた違い
インタビュアー
実際に働いてみて、病院と在宅の違いはどんなことがありますか?
岩本さん
まず感じたのは、主体が全く違うということですね。病院は患者さん側が病院に出向きますが、在宅は医療者が自宅に伺うため、主体は患者さんとご家族です。
さらに、病院では常に複数のスタッフで患者さんをみていますが、訪問看護は基本的には一人でご自宅に訪問し、患者さん・ご家族に対応しています。その方の生活空間に足を踏み入れるということに、最初はとても緊張しました。
生活環境の違い
岩本さん
バリアフリーのお家ばかりではないため、段差があったり、手すりがなかったり、浴槽が深かったり…。
入院中にも前もって、退院準備として住宅改修や福祉用具レンタル等の手配をしますが、実際に生活してみないと分からないことがとても多いです。
また、病院はいつも快適な室温管理が行われていますが、自宅では部屋の場所や時間によっても随分気温が違います。脱衣所と浴室の温度差が大きいなども、重大な問題ですね。
看護師が行うケアの違い
インタビュアー
訪問時に行うケアについてはどうですか?
岩本さん
バイタルサイン測定、医療機器の設定や作動確認、入浴介助、服薬管理などの医療的ケアは、病院と相違はありませんでした。
しかし、例えば呼吸器のアラーム履歴(過去に発生したアラームとその状況を示す記録)などは、前回の訪問時から今回の訪問時までの全ての履歴をさかのぼり、患者さんがどういう状態だったのか振り返る必要があります。病院とは違い、毎日医療者が関わっているわけではないので、よりプロフェッショナルな知識とアセスメント能力が求められると感じます。
また、服薬管理についても、病院では医療者が管理しているため、飲み忘れることはありませんが、いざ在宅に戻るとそれが難しいことが多いです。どうすれば飲み忘れを防ぐことができるか工夫するということも、在宅ならではの難しさですね。
カレンダー式になったウォールポケットを使用したり、朝昼夕を小さなジップロックに入れて1週間分ずつセットしたり。訪問の頻度や患者さんやご家族の状況に合わせて対応する必要があります。
インタビュアー
訪問中だけでなく、その前後も見ていく必要があるということですね。限られた時間で情報収集するだけでもとても大変ですね。
様々な違いを踏まえて、岩本さんが思う訪問看護師の大変さを教えてください。
岩本さん
訪問看護は決められた時間の中で動いているため、時間配分にも気を配る必要があります。
病院のように「午前にできなかったから午後に回そう」ということは難しいですし、基本一人で伺うので「できません」が通用しません。そういった意味で、患者さん・ご家族から求められるものも大きいです。
しかし、自宅にお邪魔する上で「信頼できる人じゃないと…」という気持ちが生まれるのは当然のことだと思います。患者さん・ご家族との信頼関係構築のためにも、まずは知識と技術は必須になってきます。
また、病院のように物品がそろっていないので、基本的には家にあるものを使う、もしくは必要なものは自分で持って行くため、とても荷物が多いです。
患者さんから「これから旅行にでも行くの?」と言われたこともあります。
訪問先から次の訪問先までの移動距離が遠かったり、天候が悪かったりといったことも大変ですね。
ご家族の安心につながる関わり方
インタビュアー
お話を伺う中で、患者さんだけでなく、ご家族にも目を向けていらっしゃるように感じました。
訪問を行う上で、ご家族との関わりはどうしていますか?
岩本さん
在宅における家族の存在は、患者さんにとっての一番の支えであり、反対に一番気を遣う相手でもあると思います。私は、そこに介入できるのは訪問看護師だと思っています。
そのため、訪問の際は患者さんだけでなく、ご家族にも声をかけるようにしています。困っていることはないか、夜は眠れているか、気分転換はできているかなど、ご家族とのコミュニケーションを図ることも大切にしています。
ご家族の苦悩
岩本さん
大切なご家族であっても、やはり疾患や障害を持つ方と一緒に生活をするということは本当に大変です。バリアフリーではない環境の中での移動や移乗で、体への負担も大きく、当然のように介護疲れがあります。
また、常に気を張っている状態であり、気が休まる暇がないというのが現状です。
インタビュアー
患者さんを支える家族、その家族を支えるということも大切なんですね。
ご家族に対するケア
岩本さん
そうですね、私はご家族には、訪問中はなるべく休んでいただくよう声をかけています。時には別室で休んでもらったり、希望があれば外出されることもあります。
ご家族にとって、”患者さんと離れる時間を作ること”は一番のレスパイト(介護者が一時的に休息をとること)になると思います。
また、自分が帰った後、ご家族が使いやすいように環境を整えるようにしています。
例えば物の位置を使いやすいよう整理したり、不足しているものがないか確認したり。些細な事のように思えるかもしれませんが、ケアに追われているご家族は、そこまで手が回らないことも多いため、「とても助かる」と言っていただくことが多いです。
訪問看護師の役割とやりがい
インタビュアー
病院と在宅の違いや家族との関わりを踏まえて、訪問看護師の役割とはどんなことだと思いますか?
医療チームの中での役割
岩本さん
在宅生活を続けるためには、医師、ケアマネ、介護士、リハビリ等の多職種との連携が必要不可欠だと感じています。
退院前に行われる担当者会議に比べ、在宅生活が始まってからの会議は、実際の生活環境や患者さんの症状の変化を踏まえた、より具体的で専門的な視点からの意見が聞かれます。
在宅生活を送るうえで、患者さん・ご家族が何に困っているのかに“気づく”こと。そして、そこに手を差し伸べるのが訪問看護師の一番の役割だと思います。家族ケアの視点からも、時にはレスパイト入院やショートステイなどの利用を提案することも、一つの手段だと思います。
変わらない日常を守ること
岩本さん
訪問に行って「調子はどうですか?」と聞いて「変わりないよ」と言われるとホッとします。在宅生活を送るうえで、一番大切でありながら一番難しいことは、実はこの「変わりない」ことだと思います。
私が来るのを楽しみにしてくれている患者さん・ご家族がいるというのは、病院ではなかなか経験できない喜びです。
訪問看護は、病院に比べ家族との関わりが密です。家族ケアを大切にしてきた私にとって、患者家族に本当の意味で寄り添うことができるというやりがいに直結しています。
まとめ
病院の在院日数が短くなってきている昨今、訪問看護の需要はますます大きくなっていくと思われます。
“住み慣れた自宅で過ごす”ということは、患者さん・ご家族にとって大きな目標となりますが、それを“継続”することは、とても大変で、様々な問題が生じます。
そこに介入する訪問看護師という存在。岩本さんが病棟勤務から訪問看護へ転職して感じたのは、“自宅で暮らすことを支える訪問看護の大切さ”でした。
患者さん・ご家族にとって心が休まる存在になれるよう関わっていけるといいですね。
訪問看護師を目指す方や、興味がある方にとって、岩本さんの体験が一歩を踏み出すヒントになれば幸いです。



