「インシデントを起こしてしまったかもしれない…」
そう思った瞬間、頭が真っ白になった経験はありませんか?
特に新人の頃は、「報告が怖い…」「看護師に向いていないかもしれない。」と、不安や恐怖に押しつぶされそうになることもあります。
「自分のせいかもしれない」と責任を感じる看護師も多いですよね。
ただでさえ落ち込んでいるのに、報告をし、カンファレンスをするのはなぜでしょうか?
今回は患者さんの転倒インシデントを経験した新人看護師の中村さん(仮名)に話を聞いていきたいと思います。
目次
転倒インシデントが起きた夜|ナースステーションに戻る足が重い
深夜の病棟に響いた「ドン」という音。
インタビュアー
本日はお忙しいところありがとうございます。
病棟で起こったインシデントについて、お話を聞かせてください。
中村さん
夜勤中、ちょうど先輩看護師が休憩に入っている時、静かな病棟で、急に「ドン」という音が聞こえました。
急いで音がした病室に行くと、患者さんがベッドサイドでしりもちをついていました。
その瞬間、血の気が引いたのを覚えています。
患者さんに声をかけると、「トイレに行こうと思った」と言っていました。
すぐに外傷の有無を観察し、バイタルサインの測定をするなどの対応をしましたが、ずっとドキドキして、気が動転していました。
幸い患者さんに大きな怪我はありませんでしたが、担当の患者さんだったということもあり、とても責任を感じました。
起こってしまったインシデント。報告しないといけない…でも怖い。
中村さん
転倒は、外傷やバイタルサインに異常がなくても、インシデントとして扱われることは知っていました。
患者さんの安全に関わる出来事として報告が必要になると教わっていたためです。
医師や先輩看護師に報告しなければならないと思いましたが、怖くて、すぐに報告はできませんでした。
インタビュアー
インシデントが起こった時、様々な気持ちがあったと思います。その時の気持ちや、何が「怖い」と思ったか教えてください。
中村さん
私がもっと早く巡視していれば防げたかもしれない、前もってトイレに誘導していればよかったかもしれない…そんな後悔の気持ちがありました。
報告することで、周囲から冷たい視線を浴びるかもしれない、何でもっと注意していなかったのかと怒られるのではないかということへの恐怖がありました。
「看護師に向いていないかもしれない」という思いから、このまま辞めてしまおうかということも頭をよぎりました。
病室からナースステーションに戻るまでの廊下はいつもより長く感じ、足取りはとても重く、短い時間でいろんなことを考えていたような気がします。
申し送りやカンファレンスで共有することに対し、恥ずかしい気持ちもありました。
これって私の責任?
気持ちが落ち着いてくると、「これって防げたのかな?確かに転倒リスクのある患者さんだったけど、ずっとついているわけにはいかない。」「仕方ない部分もあるのでは?」と、腑に落ちない気持ちが出てきました。
それでもインシデントの責任は看護師に向けられることもあり、その責任を問われることも怖かったです。
休憩からもどった先輩看護師に、患者さんが転倒したことを伝えました。
「患者さんが自分で転んでもインシデントになるんですか?」と聞きました。
正直なところ、「私は悪くない」という気持ちが少なからずありました。
先輩看護師は、怒ることはなく、「大きな怪我しなくてよかったね。でも、患者さんが一人で動いたとしても、インシデントとしてあげてもらわないといけないんだ。明日一緒に報告しよう。」と言ってくれました。
絶対に怒られると思っていたので、先輩の優しい言葉に救われたのを覚えています。
インタビュアー
優しい言葉をかけられると、怖い気持ちや焦る気持ちが和らぎますね。
全体に報告した時、他のスタッフはどうでしたか?
インシデント報告の意味|カンファレンスで気づいたこと
意外だった周囲の反応
中村さん
翌日の申し送りの時に、全体に報告をしました。
厳しく指導されるかもしれないと緊張しながら報告したのですが、実際は責められることはなく、「転倒リスク高い患者さんだったもんね」「防ぎようのないケースだったね」と、共感してくれる声が多かったんです。
今回は不可抗力の事故だったこともあり、スタッフみんなで対策を考えてくれました。
患者さんの転倒リスクの再評価を行い、ベットの配置、センサーマットの設置、ナースコールが重なった時の対応など、再び転倒することがないように、みんなで話し合いました。
先輩看護師からは「患者さんは遠慮してナースコール押さなかったのかもね。」との意見も上がりました。
私は、その患者さんがなぜ一人で動いてしまったのか。遠慮していたのか、自分一人でも大丈夫と思ったのかなど、患者さんの気持ちに目を向ける余裕がなかったため、なんだか患者さんに申し訳ない気持ちになりました。
転倒転落をインシデントとしてあげることで、「また転倒するかもしれない」という予測を立て、それに対してどう対策が必要かを考えるきっかけになりました。
話し合う中で、患者さんの気持ちを考えることは、行動の予測につながるという意味でも大切だということを学びました。
報告の本当の意味
中村さん
申し送りの後、師長さんが、“患者さんの予測不能な行動での転倒転落がインシデントになる理由は、医療安全の視点からだ”と教えてくれました。
インシデントの報告は、“責められる場”ではなく、“みんなで考える場”であり、チーム全体の学びの場となりました。
インシデントが起こらないに越したことはありませんが、先輩看護師からの意見を聞くことは、とても勉強になりました。
“こんな風に工夫すればいいんだ”、“これは私にはない視点だったな”と、学ぶことばかりでした。
インシデントを怖がるだけでなく、この機会に、先輩の工夫やアイディアをたくさん吸収したいと思いました。
インタビュアー
先輩看護師ならではの視点や工夫を聞くきっかけになったんですね。
話し合いの後、中村さんご自身や、周りのスタッフに何か変化はありましたか?
インシデントカンファレンス後の変化
中村さん
今回の話し合いの後、私だけでなく他のスタッフも、その患者さんが再び転倒しないように注意して観察するようになっていました。
また、「こう工夫したらよかったよ」「こういう時気を付けた方がよさそうだったよ」と、カンファレンス以外でもスタッフ同士声を掛け合うようになり、チーム全体として、患者さんの安全を守ることへの意識が高まっていることを感じました。
そのことがあってからは、他の人のインシデント報告も、他人事ではなく、「自分も起こしていたかもしれない」という気持ちで聞くことができるようになりました。
“こんな時、患者さんは危なくないかな”と、リスクの予測を立てるようになり、自分の確認作業や観察への意識も高まったように思います。
まとめ
インシデントの報告は勇気がいるものです。
しかし、インシデントを共有することは、責めるためではなく、インシデントを個人の失敗ではなく、チーム全体の学びにするために大切な事です。
一人では気付けなかった視点や、病棟としてできる工夫を考えることは、患者さんの安全を守ることにつながり、スタッフの意識を高めるきっかけになります。
インシデントを一人で抱え込むのではなく、チームで振り返ることが、結果として患者さんの安全につながっていきます。


