緩和ケア病棟で働くためには3~5年は経験がないと採用してもらえない…と、看護の中でも難しい分野と言われている緩和ケア病棟。
そんな緩和ケア病棟で働く看護師2年目の山本さん(仮名)。
本記事では、緩和ケア病棟が難しいと言われる理由と、その中で山本さんが見つけた“自分のやりたい看護”や“強み”について、お話を聞いていきたいと思います。
目次
緩和ケア病棟とは?最年少で配属されて見えた理想と現実
インタビュアー
本日はお時間をいただきありがとうございます。山本さんは緩和ケア病棟で働いていらっしゃるんですね。
全国的にも徐々に増えてきている緩和ケア病棟ですが、特徴を教えてください。
山本さん
緩和ケア病棟は、主にがんの終末期の方が入院するところです。病気に対する治療はせずに、痛みや息苦しさ、吐き気や倦怠感などの苦痛を和らげたり、心のケアを行うところです。
病気に対する治療はしないため、もちろん病気は進行してしまいます。実際、9割ほどの方が入院中に亡くなられ、残りの1割は「最期は自宅に帰りたい」と、在宅に戻られる方がほとんどです。
インタビュアー
ほとんどの方が亡くなってしまうというのは、そこで働く看護師さんも辛いですね。なにか緩和ケア病棟で働きたいと思ったきっかけがあったのですか?
山本さん
実は私は学生の時から「緩和ケアの看護師になりたい」と思っていたんです。
家族をがんで看取ったことがあるのですが、その時は最期まで痛くて苦しい死でした。亡くなった後に“緩和ケア病棟”というものがあると知り、絶対にそこで働きたいと思いました。
でも、緩和ケア病棟は、ある程度経験を積まないと配属させてもらえないと言われています。私も他の病棟で経験を積もうと思い、一旦は違う病棟へ入職しましたが、やはり自分のやりたい看護とは違ったため、1年足らずで離職してしまいました。
それでも、どうしても緩和ケア病棟で働く夢を諦められませんでした。再就職の際には、その熱い想いを伝え、その病院の最年少で採用してもらえることになりました。
念願の緩和ケア病棟へ入職
インタビュアー
実際に緩和ケア病棟で働いてみてどうですか?
山本さん私が思い描いていた理想に近いと思いました。良いと思った大きな理由は、“最期まで自分らしく生きられる”ということです。
例えば、生活の拠点は病院にして、週末は自宅に外泊してご家族との時間を過ごすという生活をしている方がいたり、「仕事が生きがいだから、最後まで働きたい」と言って病院から会社に出勤する方もいました。
インタビュアー
最年少で採用だったとのことですが、周りのスタッフの受け入れはどうでしたか?
山本さん
正直なところ、周りのスタッフからの風当たりは強く、最初は何も任せてもらえませんでした。
随分悔しい思いもしましたが、実際経験がないのは本当でしたから、仕方ないと思うしかなかったですね。
緩和ケア病棟が難しいとされる理由
インタビュアー
最年少で配属されて、理想と現実のギャップがあったと思います。その中で特に“難しい”と感じたことは何でしたか?
山本さん
さきほども言いましたが、緩和ケア病棟は基本的に治療はせず症状緩和のみです。
検査もほとんどしないため、患者さんの体の中で何が起こっているのか、これからどうなっていくことが予測されるのか、症状を見てアセスメントするしかないです。
自分のスキル不足をひしひしと感じました。ほかの病棟で経験を積んでからでないといけないという理由が、入職してようやく分かりました。
身体の症状緩和よりも難しい“心のケア”
緩和ケア病棟でのケアは、身体症状を和らげるだけではありません。患者さんの“心”に寄り添うことがより難しく、看護師として大きな課題になるといいます。
死を前にした患者さんの心の葛藤
インタビュアー
経験不足を痛感したとおっしゃいましたが、実際に患者さんと関わる中で、どのようなことが一番難しいと感じましたか?
山本さん
病気が進行するにつれ、患者さんの症状はどんどん重くなっていきます。身体的な辛さは、ある程度薬で緩和されますが、一番難しいのは気持ちの辛さです。
「何でこんな病気になってしまったんだろう」と、答えの出ない問いに、心が苦しくなる患者さんがたくさんいます。
それに加え、死が近づいているという恐怖や、家族を残していく寂しさ、そんな様々な気持ちがありながらも、現状を受け入れなければならない状況下にあります。
インタビュアー
それは健康に生きている私達には想像できないほど、とても辛くて難しいことですね。そのような患者さんにどうやって寄り添っているのですか?
私がやりたいこと
山本さん
患者さんのお話を、その方のペースでお伺いするように努めています。急かしたりせず、時には「沈黙」の時間も大事にしながら、患者さんが話しやすい空気感を作るようにしています。
そうすることで、患者さんご自身が、気持ちの整理をしながら、言葉にすることができます。患者さんの言葉を引き出し、寄り添い、受け止められる存在でありたいと思います。
また、お話をお伺いする中で、患者さんが今までの人生で“楽しかったこと、“頑張ってきたこと”、“挫折したこと”などを話してくださることがあります。
様々な話をしながら、気持ちの整理ができてくる患者さんも多いです。実際に言葉として表出することで、「いい人生だった」と振り返ることができるまでに落ち着く方もいらっしゃいます。
そういった患者さんの気持ちをに寄り添うことこそ、私が看護師として大切にしていることであり、“やりたい看護”だと気づきました。
“やりたいこと”をやれる自分になる
インタビュアー
山本さんが見つけた“やりたい看護”を実践する時に工夫したことはありますか?
山本さん
入職した当初は業務に追われ、慣れる事に必死で、患者さんやご家族とゆっくり話す時間は作れませんでした。「ゆっくり話をしたいのに、そうすると業務が終わらない…」という葛藤に随分悩みました。
そこで私が出した答えは、自分のスキル磨きをすればいいんだと思いました。正確な技術と知識をもつことで、業務を早く終わらせることができる。
その結果、患者さんやご家族とゆっくりお話をする時間を作ることができると思いました。
自分の強みを作る
インタビュアー
“自分のスキル磨き”とは、具体的にはどのようなことを行ったのでしょうか?
山本さん
最年少で入職したため、経験は他のスタッフを超えることはできません。でも、自分の中で何か一つ“自信をもってできること”を作ろうと思いました。私の場合、それはエンゼルケアでした。
亡くなった患者さんの髪を整え、うっすらお化粧をし、体を拭き、綺麗なお洋服に着替えて、お別れの準備をするエンゼルケア。
私がエンゼルケアに力を入れたいと思ったのは、残された方は患者さんの最期の顔を忘れません。そのため、穏やかな表情で見送ってあげたいという思いがあったからです。
インタビュアー
亡くなってすぐの事ですと、ご家族としては一番お辛い時かと思いますが、エンゼルケアを行う上でご家族に対して配慮していることがあったら教えてください。
山本さん
エンゼルケアを行う際、ご家族が可能であれば、一緒に体を拭いたり、お化粧の色味を一緒に決めてもらったりと、ご家族にもエンゼルケアに参加していただくようにしています。
“ご遺体に触れてはいけない”と思ってしまいがちですが、ケアに参加していただくことで、“今まで通り患者さんに触れていいんだ”と思ってもらえるようになりました。
また「生前はどんな方だったのですか」などご家族に声をかけることで、患者さんとの思い出話をしてくださったり、「この足で歩んでこられたんですね」と患者さんを労う言葉をかけるようにしています。
配属当初は経験不足の看護師でしたが、3年後にはエンゼルケアの勉強会を主催するまでになりました。
行動を起こすことで周りの見る目も変わっていった
インタビュアー
山本さんが一生懸命努力されたのが伺えます。最初は周りのスタッフ風当たりが強かったと話されていましたが、だんだんと変わってきましたか?
山本さん
そうですね、知識や技術が身につくと自分自身も自信が持てるようになり、ビクビクしながら働くことはなくなりました。
周りのスタッフからも徐々に認めてもらえるようになり、特にエンゼルケアに関しては、他のスタッフからも頼られるようになりました。
まとめ
山本さんは「一人の人の人生の最期に立ち会うことができる…恐れ多いことだが、だからこそ自分ができる精一杯のことをしてあげたい。」と話してくれました。
患者さん・ご家族を思う山本さんの気持ちが、自分の行動を変え、周囲にも伝わり、“やりたい看護”ができるようにまで変わっていきました。
経験が浅くても自分の頑張り次第で“やりたい看護”を見つけることができます。患者さん・ご家族のためにも、努力を続けることが大切ですね。


