CYPによる薬物代謝のメカニズムや相互作用について解説するシリーズ全4回の3回目として、今回はリスク評価と添付文書上の記載との乖離などについて理解を深めていきたいと思います。
※CYP酵素と薬剤相互作用シリーズ
CYP酵素系とは何か?基本となるメカニズムの解説
CYP酵素による薬剤相互作用・リスク管理・薬剤選択について
見落としがちな薬剤相互作用
これまでの2回の記事では、CYPを介した相互作用に介入する上での、基本的な考え方についてご紹介してきました。実際に介入しようと考えたとき、「添付文書に記載がないから、医師に提案しにくい」「どのくらい影響するのか聞かれたら、どうしよう」などと不安になってしまった方はいませんか?
シリーズ3回目の今回は、添付文書での記載に頼らず、より実践的に介入するためのポイントを、実例を元に考えてみたいと思います。
CYP相互作用は、添付文書だけでは判断できない
CYPを介した相互作用は、添付文書の情報だけでは十分に判断ができない、というのが現状です。
添付文書では、相互作用について「併用禁忌・併用注意」の2種類の注意喚起がされています。ですが、どの程度の影響で禁忌にするかは、明確には決められていません。また、◯倍になるといった具体的な記載がされていない例も多いです。
ですから、「添付文書に書いてないから問題ない」「可能性があとて書いてあるだけだから、大丈夫かな」と思っていると、落とし穴にハマってしまいます。
薬剤師として一歩進んだ介入をするためには、「添付文書に書いてある」以上のところを検討できる力を、身につける必要があるでしょう。
これまでの2回の記事でご紹介した「PISCS」の考え方では、より臨床の現場で実践的に考えるということが意識されているようです。CYPの基質薬と阻害薬について、AUCの変化や注意のレベルを以下の6段階に分けています。カッコ内には、基質薬のクリアランスへの寄与率(CR)、阻害薬の阻害率(IR)の設定範囲を示しました。
①極めて高度(>0.9)
②高度(0.8〜0.89)
③やや高度(0.7〜0.79)
④中等度(0.5〜0.69)
⑤軽度(0.3〜0.49)
⑥極めて軽度(0.1〜0.29)

CRやIRの値がインタビューフォームの情報等から計算できれば、大まかなAUCの上昇率がわかります。それにより、薬剤の減量で対応できるのか、CYPの影響のない薬剤への変更が望ましいのか、より実践的な判断が可能です。
相互作用の実例とアプローチ方法
では、実際の例からアプローチ方法を考えてみましょう。
例1:シロスタゾールとカルバマゼピン
たとえば、三叉神経痛の改善目的にカルバマゼピンを服用していた患者が、脳梗塞を発症し、再発予防のためにシロスタゾールの服用を始めた、というパターンを考えてみましょう。
脳梗塞の再発予防のためですから、シロスタゾールの効果が減弱するようなことがあってはいけません。また、逆に効果が増強してしまっても、出血の副作用リスクが高まるため、危険です。
シロスタゾールは、CYP3A4、及びCYP2D6、CYP2C19により代謝されます。
カルバマゼピンは、CYP3Aの誘導効果があり、そのクリアランスの増加(IC)の程度は3.0とされています。多くの医薬品の代謝に影響するため、知っておきたい薬の1つです。
よって、シロスタゾールの効果が減弱してしまう可能性があるため、どの程度影響するのかを計算してみましょう。
シロスタゾールの先発品である「プレタール」のインタビューフォームを見てみると、ケトコナゾールとの併用でAUCが129%に増加したと記載があります。日本医療薬学会の資料より、ケトコナゾールのCYP3A4の阻害率(IR)は1.0です。
前回の記事で紹介した以下の式を利用して、シロスタゾールのCRを計算すると、約0.23となりました。
次に、この値を利用し、カルバマゼピンと併用したときのAUCの残存率を計算します。

次に、この値を利用し、カルバマゼピンと併用したときのAUCの残存率を計算します。

この式にあてはめると、約59%という結果になりました。抗血小板作用が59%にまで減弱するとなると、脳梗塞の再発予防として十分な効果が得られるとは言い切れないでしょう。シロスタゾール以外の抗血小板薬を検討いただくか、神経痛の治療薬をカルバマゼピン以外のものへ変更できないか相談するという方法が考えられます。
例2:スタチン製剤の使い分け
スタチン製剤の多くはCYP3A4の寄与率が高く、阻害薬との併用でAUCが大きく上昇することが知られています。ですが、すべてのスタチン製剤が一律に使えないということではありません。
たとえば、脂質異常症に対して元々アトルバスタチン10mgを服用している患者に、ボリコナゾールが追加された場合を考えてみます。
ボリコナゾールは、CYP3Aの阻害率(IR)が0.98と非常に高いため、CYP3Aにより代謝される薬物のAUCが大きく上昇すると予想できます。スタチン製剤は、種類によってCYP3Aの寄与率(CR)が異なりますので、安全に併用できるものがないか、検討してみましょう。
| CR | 添付文書上 | AUC上昇率 | ||
|---|---|---|---|---|
| ストロング | アトルバスタチン | 0.68 | 注意 | 2.8倍 |
| ロスバスタチン | 0.02 | 注意 | 1.1倍 | |
| ピタバスタチン | 不明 | 注意 | 不明 | |
| フルバスタチン | 0.24 | 注意 | 1.3倍 | |
| シンバスタチン | 1.00 | 注意 | 50倍 | |
| プラバスタチン | 0.35 | 注意 | 1.5倍 |
影響が少ないと考えられるのは、ロスバスタチン・ピタバスタチン・フルバスタチンです。プラバスタチンも比較的影響は少ないようですが、AUCが1.5倍になることを考えると、減量が必要になるかもしれません。
元々、ストロングスタチンであるアトルバスタチンでコントロールされていたことを考えると、同じストロングスタチンの中で変更したいです。ピタバスタチンであれば、CYP3Aの寄与はほとんどないと考えられますので、ピタバスタチンへの変更がよいのではないでしょうか。
患者指導はどうする?
相互作用に関しては、患者本人に一覧表を渡して見つけてもらう…というようなことは現実的ではありません。指導をするとして、「飲み合わせに注意が必要な薬のため、必ず医療機関や調剤薬局でお薬手帳を見せてください」「市販薬を購入するときにも、気をつける必要があります」などと情報提供する程度になるのではないでしょうか。
ただし、患者の年齢や属性を加味して、考えうる薬剤についてあらかじめ注意喚起をしておくという方法は取れるかもしれません。
たとえば、若い女性にリファンピシンが開始された場合、低用量ピルを服用していないかの確認・服用中は使用できないことの注意喚起をおこなうとよいでしょう。最近は、オンラインで購入している方も多いので、お薬手帳に記載がないからといって、安心はできません。
比較的若い方で、シクロスポリンなどの免疫抑制剤を服用されている方の場合、加齢に伴って生活習慣病が出てくる可能性も考えられます。一部のスタチン製剤や降圧薬は、免疫抑制剤と併用することでAUCの変化が予測されますので、「将来的に、コレステロールや血圧を下げる薬が始まることもあると思います。そうした薬とシクロスポリンは相互作用が多く(飲み合わせに問題が出やすく)、しっかり確認をしたいので、お薬手帳を必ず持参してください」などと注意喚起するとよいでしょう。
まとめ
今回は、相互作用のある実例を元にしながら、介入や考え方のポイントをご紹介しました。相互作用があることの指摘だけでなく、代替薬の提案まで責任もっておこなえるように準備しましょう。
相互作用の多い薬剤を服用している患者には、その事実を知っておいてもらう必要があります。お薬手帳を持つことの必要性をお伝えし、協力が得られるようにすることが大切です。
次回シリーズ4(最終回)では、臨床現場で見落とされがちな、しかし重要な薬剤相互作用について解説したいと思います。
