「薬歴がいつも同じようになってしまう」「もっとわかりやすい書き方はないかな?」など、薬歴のことでお悩みの方はいませんか?
薬歴は毎日何十人分も記載しなくてはいけないので、なるべく簡潔でありながら、誰が見てもわかるようにする必要があります。今回は、薬歴を早く・わかりやすく書くコツをご紹介します。
薬歴とは
薬歴とは「薬剤服用歴」のことで、患者の基本情報や生活状況、処方薬などについてまとめた資料です。
かかりつけ薬剤師を決めていない患者の場合、日によって別の薬剤師が1人の患者に対応することになります。そういった場合にも、薬歴があれば過去の状況などが把握でき、スムーズに患者さんとの面談に入れるでしょう。
最近は電子薬歴も普及しており、写真や資料も簡単に管理できるようになってきました。電子薬歴の機能を最大限利用すれば、素早く記録を書くことができるようになりますよ。
薬歴の目的
患者さまの薬物療法に関する情報を「薬歴」として一元的に管理することで、切れ目なく、安全で適切な薬物療法を提供することが、薬歴をつくる目的です。
もちろん、調剤報酬の請求の根拠となる書類でもあります。過不足なく、必要な情報が記載されていなくてはなりません。
薬歴の記載事項
適切な服薬指導を行ううえで欠かすことのできない薬歴には、以下の点について記載する必要があります。
1.患者の基礎情報(氏名、生年月日、性別、被保険者証の記号番号、住所、必要に応じて緊急連絡先)
2.処方及び調剤内容(処方した保険医療機関名、処方医氏名、処方日、処方内容、調剤日、処方内容に関する照会の内容等)
3.患者の体質(アレルギー歴、副作用歴等を含む)、薬学的管理に必要な患者の生活像及び後発医薬品の使用に関する患者の意向
4.疾患に関する情報(既往歴、合併症及び他科受診において加療中の疾患に関するものを含む。
5.併用薬(要指導医薬品、一般用医薬品、医薬部外品及び健康食品を含む。)等の状況及び服用薬と相互作用が認められる飲食物の摂取状況
6.服薬状況(残薬の状況を含む。)
7.患者の服薬中の体調の変化(副作用が疑われる症状など)及び患者又はその家族等からの相談事項の要点
8.服薬指導の要点
9.手帳活用の有無(手帳を活用しなかった場合はその理由と患者への指導の有無)
10.今後の継続的な薬学的管理及び指導の留意点
11.指導した保険薬剤師の氏名
薬歴の書き方は?
薬歴の書き方は、会社によってはルールを設けているところもありますが、個々人の裁量に委ねられている部分も多いです。先ほどご紹介した「薬歴の記載事項」が網羅されていれば、問題ありません。次にその患者さまを指導する薬剤師が誰になっても、薬歴を見ればわかるように記載しましょう。基本的にはSOAP形式が用いられます。
S:Subject
患者さま本人の主観的な情報を記載します。患者さまの発言を書くことが多いです。
O:Object
客観的な情報を記載します。新規開始となった薬剤や検査値、疼痛のNRS評価、コンプライアンスなどです。説明した内容を記載しておくと、「前の薬剤師には~~と言われたのに」のようなトラブルを避けることができます。
A:Assessment
SやOの内容を、薬学的な観点から分析し、その内容を記載します。
P:Plan
Aを受けて、今後の計画を記載します。
【薬歴実例】初回患者の場合
では、実際に「頭痛がひどいため、病院を受診し処方箋を持ってきた初回の患者さま」の場合で薬歴の記載例を考えてみましょう。
葛根湯 1回1包 1日3回 毎食前 14日分
【会話例】
【SOAP記載例】
S)
肩こりからくる頭痛と言われた。漢方は初めてだが、効果が遅いのではと心配。
O)
・緊張型頭痛の疑い、初診
・葛根湯を食前に飲むこと、漢方薬の中では比較的効果が早いことを説明
・ロキソプロフェンとレバミピドは、疼痛時に4時間以上あけて飲むこと説明
A)
用法・用量理解良好。
P)
ロキソプロフェンの効果、頭痛日記を確認。
【薬歴実例】再来患者の場合
では、続いて「アトピー性皮膚炎で病院を過去に受診し薬をもらったが、通院のため再度病院を受診し処方箋を持ってきた再来の患者さま」の場合を例に見ていきましょう。
アンテベート軟膏 ひじ 1日1回塗布
ロコイド軟膏 首・顔 1日1回塗布今回処方:アレグラ錠 1回1錠 朝夕食後 14日分
アンテベート軟膏 ひじ 1日1回塗布
ロコイド軟膏 首・顔 1日1回塗布
【会話例】
【SOAP記載例】
S)
セチリジンは眠気が強く、薬を変更してもらいました。皮膚の症状は変わりないです。
O)
眠気のため、セチリジン→アレグラ
用法変わること説明
軟膏は指示通り塗布できており皮膚症状著変なし
A)
内服薬の用法が変わったため、飲み忘れが生じる可能性がある
P)
アレグラで眠気ないか・飲み忘れないか確認
薬歴を早く、わかりやすく書くコツ
それでは、実際にSOAP方式を用いて薬歴を書く際に意識したいポイントを4つご紹介します。先ほどの記載例で、どのように実践されているか確かめてみてくださいね。
【ポイント1】Sは一言一句書かなくてよい
患者さんが話したことを、一言一句そのまま書く必要はありません。ある程度は要約して記載しましょう。
慣れてきたら、患者さんの理解度や性格など、どのような人なのかがわかるように書くことに挑戦してみてください。「この人は不安になりやすいから話をよく聞こう」「いろいろ調べてくる人だから、資料があった方がいいな」など、後々役に立ちますよ。
【ポイント2】AとPはまとめてもよい
AとPを1つにまとめ、薬歴の記載時間を短縮してもよいでしょう。
例えば上記の再診患者の例では、以下のようになります。
用法変更あり飲み忘れる可能性→次回確認
アレグラで眠気の有無確認
1日に何十人分もの薬歴を記載することを考えれば、こうした少しの短縮もバカにできません。
【ポイント3】「P」は少し具体的に
「P」にいつも「著変なしdo」などと書いている方も少なくありません。
もちろん、とくに何も問題がない患者さまもいますが、何か変更があったときや、ちょっとした会話から疑問や不安を訴えられた場合には、次回以降フォローするために「P」に記載するようにしましょう。
【ポイント4】電子薬歴なら定型文登録も利用する
定型文は、「O」の部分で活用できます。たとえば、麻薬や抗凝固薬、初回の吸入薬指導など、確認・指導しなければならない項目がある程度決まっている場合は、定型文登録でフォーマットを作り、それを埋めていくようにするとよいでしょう。早く書けるだけでなく、聞き漏れを防止する効果も期待できます。
コツをおさえて効率よく薬歴を記載しましょう
薬歴は、患者さまに関連する記録というだけでなく、診療報酬を請求するのにも必要な書類です。
新卒の方もブランクがあって不安な方も、コツさえ覚えてしまえばわかりやすい薬歴をサッと書くことができますよ。毎日何十人分も記載するものですから、今回ご紹介したコツを実践して、効率よくこなしていきましょう。