化学療法をおこなう患者にとって、「悪心・嘔吐」は自覚するつらい副作用の代表です。同じレジメンであっても悪心が出るかどうかについては個人差が大きく、治療を始めるまで、自分がどの程度つらく感じるかわかりません。「一人ひとりに合った適切な対応を、迅速に提案する」というのが、薬剤師に求められる役割といえます。
レジメンの種類、悪心・嘔吐の発現時期によって、制吐療法は異なります。今回は、2023年版の「制吐薬適正使用ガイドライン」に沿って、制吐療法について解説します。
化学療法によって生じる悪心・嘔吐(CINV)とは?
まずは、化学療法に伴って生じる悪心・嘔吐について、その分類や評価方法についてご紹介します。
発現時期による悪心・嘔吐の分類
悪心・嘔吐は、その発現時期によって使用する制吐剤の種類を変えて対応します。患者の訴える悪心・嘔吐がどれに該当するのか、評価することも重要です。
| 急性期悪心・嘔吐 | 抗がん剤投与0〜24時間以内に生じる悪心・嘔吐 |
| 遅発期悪心・嘔吐 | 抗がん剤投与24〜120時間以内に生じる悪心・嘔吐 |
| 突出性悪心・嘔吐 | 制吐薬を予防的に投与しているにも関わらず生じる悪心・嘔吐 |
| 予期性悪心・嘔吐 | 「明日から抗がん剤治療だ」などと考えるだけで誘発される悪心・嘔吐 |
CTCAE分類による悪心・嘔吐の評価方法
化学療法による副作用は、誰もが同じような評価をするために、重症度の基準が定められています。悪心・嘔吐ついては次のようになっていますので、評価する際にはGradeで評価しましょう。
| Grade1 | Grade2 | Grade3 | Grade4 | |
|---|---|---|---|---|
| 悪心 | 摂食習慣に影響のない食欲低下 | 著名な体重減少、脱水または栄養失調を伴わない経口摂取量の減少 | カロリーや水分の経口接種が不十分;経管栄養/TPN/入院を要する | – |
| 制吐 | 治療を要さない | 外来での静脈内輸液を要する;内科的治療を要する | 経管栄養/TPN/入院を要する | 生命を脅かす |
化学療法中の患者の悪心・嘔吐をフォローアップする際には、「何日目ごろ、どのくらいの吐き気を感じていたか」を細かく確認すると、次回以降の制吐療法の改善に役立ちます。
また、「吐き気=抗がん剤の副作用」ではないことにも注意しましょう。たとえば、がん患者に吐き気が出る原因としては次のようなものも考えられます。
- 腹膜播種による腹水や消化管狭窄
- 高カルシウム血症
- SIADHによる低ナトリウム血症
- 放射線治療による宿酔
- 腹部手術後の腸閉塞
- 腸管蠕動不全
- 脳転移
患者の訴える吐き気の発現時期、電解質、転移の状況などを総合的に考えることが重要です。
化学療法で用いられる制吐薬の種類
化学療法では、主に次の3種類の制吐薬を使用します。
・副腎皮質ステロイド(デキサメタゾン)
最も古くから化学療法の制吐薬として使用されています。制吐薬として有効ではある一方、血糖上昇、不眠、消化性潰瘍などのリスクが無視できません。
・5-HT3受容体拮抗薬
注射剤として、グラニセトロン、パロノセトロンが使われています。中でもパロノセトロンは5-HT3受容体との親和性が高く半減期が長いのが特徴で、遅発性の悪心・嘔吐にも有効です。
・NK1受容体拮抗薬
脳のCTZ(化学受容体引金帯)や中枢神経に存在するNK1受容体を阻害し、嘔吐中枢への刺激を抑えます。5-HT3受容体拮抗薬と併用するのが原則です。内服のアプレピタントおよび注射剤のホスアプレピタント、ホスネツピタントの3種類があります。
※5-HT3受容体拮抗薬とNK1受容体拮抗薬については、効果や副作用に種類による大きな差はありません。どの種類を選ぶのかは、施設や個人に任されています。
高度催吐性リスクの抗がん薬に対する制吐療法
90%を超える患者に悪心が発現するものが高度催吐性リスク(HEC)です。
レジメン例
高度催吐性リスクのレジメンの例としては、次のようなものがあります。
- AC(ドキソルビシン+シクロホスファミド)療法
- EC(エピルビシン+シクロホスファミド)療法
- シスプラチン
- ダカルバジン
- ドキソルビシン(60mg/me以上)
- シクロホスファミド(1,500mg/m2以上)
- イホスファミド(2,000mg/m2/回以上)
制吐療法
高度催吐性リスクのレジメンでは、十分な制吐療法が必要不可欠です。次の4剤併用を基本とします。
| day1 | day2 | day3 | day4 | day5 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 5-HT3受容体拮抗薬 | 〇 | ||||
| NK1受容体拮抗薬(po) | 125mg | 80mg | 80mg | ||
| または (iv) | 〇 | ||||
| デキサメタゾン | 9.9mg(iv) | 8mg(po) | 8mg(po) | 8mg(po) | |
| オランザピン5mg※1 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
※2.調剤薬局で扱う可能性のある部分を赤字で表示しています。
オランザピンを含めた4剤併用により、急性期・遅発期・全期間の全てで「中等度以上の悪心なし」が3剤併用よりも有意に抑制されることが示されました。そのため、現在はオランザピンの上乗せが標準的な制吐療法として推奨されています。
また、3剤併用でおこなう場合、およびステロイドスペアリングをおこなう場合の5-HT3受容体拮抗薬は、半減期の長いパロノセトロンが優先されます。
中等度催吐性リスクの抗がん薬に対する制吐療法
患者の30〜90%に悪心が発現するものが中等度催吐性リスク(MEC)です。
レジメン例
次のような抗がん剤を含むレジメンは、中等度催吐性リスクに分類されます。
・カルボプラチン
・オキサリプラチン
・ドキソルビシン
・イリノテカン
・メトトレキサート(〜1000mg/m2)
・テモゾロミド
・アムルビシン
制吐療法
基本的には、次の2剤併用の制吐療法がおこなわれます。
| day1 | day2 | day3 | day4 | day5 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 5-HT3受容体拮抗薬 | ◯ | ||||
| デキサメタゾン | 9.9mg(iv) | 8mg(po) | 8mg(po) |
カルボプラチン(AUC≧4)のレジメンを実施する場合や、2剤併用療法では悪心が十分に制御できない場合は、以下のように経口または静注のNK1受容体拮抗薬を追加し、3剤併用へと強化します。 →→→→→
day1
day2
day3
day4
day5
5-HT3受容体拮抗薬
◯
NK1受容体拮抗薬(po)
125mg
80mg
80mg
または (iv)
◯
デキサメタゾン
4.95mg(iv)
4mg(po)※
4mg(po)※
※調剤薬局で扱う可能性のある部分を赤字で表示しています。
3剤併用でも悪心を制御できない場合は、オランザピンの追加も検討できます。
軽度・最小度催吐性リスクの抗がん薬に対する制吐療法
患者の10〜30%に悪心が発現するものが軽度催吐性リスク、悪心の発現率が10%未満のものは最小度催吐性リスクです。
レジメン例
次のような抗がん剤を含むレジメンは、軽度・最小度催吐性リスクに分類されます。
【軽度】
・エトポシド
・ゲムシタビン
・ノギテカン
・パクリタキセル
・ドセタキセル
・フルオロウラシル
・ペメトレキセド
・ドキソルビシン
【最小度】
・セツキシマブ
・ベバシズマブ
・ペルツズマブ
・リツキシマブ
・ニボルマブ
制吐療法
軽度・最小度催吐性リスクに該当するレジメンの場合、予防的な制吐療法は推奨されません。一人ひとりの副作用発現状況に応じて、必要であれば制吐薬を使用するという対応で十分です。
実際には、デキサメタゾンや5-HT3受容体拮抗薬などを使用しているケースもあります。
その他のシーンでの制吐療法
最後に、実際に悪心がでた場合の制吐療法についてご紹介します。
突出性悪心・嘔吐に対する制吐療法
制吐療法を実施していても、十分に悪心が抑えられないケースもあります。
突出性悪心・嘔吐がある場合には、予防投与をしている薬剤とは作用機序が異なる制吐薬を、適宜使用していきます。臨床では、メトクロプラミドを使用することが多いです。胸焼けのような症状がある場合には、抗がん剤投与日から数日間、PPIやH2ブロッカーを予防的に投与する方法もあります。
PPIやH2ブロッカーを追加する場合は、元から服用しているものと重複しないよう注意しましょう。
予期性悪心・嘔吐に対する制吐療法
予期性悪心・嘔吐を生じさせないためには、悪心の経験をさせないよう制吐療法を強化することが、まず重要です。また、化学療法の治療サイクルを繰り返すほど予期性悪心・嘔吐のリスクは高くなっていくこともわかっています。不安の強い方、前の治療レジメンで悪心の経験があった方などには、より丁寧な薬剤指導、制吐療法の強化を実施しましょう。
その上で、予期性悪心・嘔吐がある方に対しては、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の投与が有効です。
たとえば、ロラゼパム(0.5mg/回から開始、3mg/日まで)やアルプラゾラム(0.4mg /回、1.2mg/日まで)を前日夜、当日に服用します。(※予期性悪心・嘔吐には保険適用外です。)
まとめ
今回は、2023年に改定された「制吐薬適正使用ガイドライン」を元に、化学療法における悪心・嘔吐の予防法・対処法についてまとめました。
制吐療法の基本を理解することで、悪心がつらい患者に対してどのように制吐療法を強化すべきか自信を持って提案できるようになります。今回の記事が、実際に患者の悪心・嘔吐を適切にフォローアップしていくきっかけとなれば幸いです。
