前回の記事では、せん妄の定義や、リスク因子など、せん妄の基本について解説しました。基本がわかっても、「実際に提案するのは、自信がない」と躊躇してしまう方もいるでしょう。
今回は、せん妄についての症例をもとに、実際の考え方、介入の進め方について見ていただきたいと思います。実際にご自身が関わっている患者さんのことなどを思い浮かべながら、参考にしていただければと思います。
せん妄とは?薬剤師が知っておくべき基礎知識とリスク因子
せん妄に対して薬剤の整理・追加が有効な事例
まずは、せん妄の予防や治療に対して、薬剤の調整でできることについて、具体的な例をもとに考えていきましょう。
80歳女性 体重52kg
既往:高血圧、骨粗鬆症、脂質異常症
大腿骨頸部骨折の手術のため、入院となった。アムロジピン錠5mg 1回1錠 朝食後
イルベサルタン錠100mg 1回1錠 朝食後
アトルバスタチン錠5mg 1回1錠 夕食後
アルファカルシドールCp0.25μg 1回2Cp 朝食後
オロパタジン錠5mg 1回1錠 就寝前
アセトアミノフェン錠200mg 1回2錠 毎食後
芍薬甘草湯 1回1包 毎食前CRE 1.2mg/dL、BUN 20.4、Na 138、K 3.3、Ca 8.5、Alb 3.2
せん妄への予防的介入
入院時には、薬剤師も面談をする施設が多いでしょう。まずは、せん妄のリスクとなるような要因がないか、確認していきます。
【会話例】
今回の例におけるせん妄リスクを評価しましょう。面談の前に、診療情報提供書などをチェックしておくとスムーズです。
- 全身麻酔の手術予定
- 70歳以上の高齢者
- 疼痛
- せん妄リスクのある薬剤:オロパタジン
- 電解質異常を生じうる薬剤:アルファカルシドール、芍薬甘草湯
実際の面談では、身体症状について確認しています。カロナール400mg/回では、十分に痛みを抑えることができていないようです。痛みは、せん妄の促進因子になるため、治療強化が必要になるでしょう。
たとえば、体重が50kg以上ありますので、アセトアミノフェンは1回500mgへ増量し、回数も1日4回(毎食後、就寝前)にするのが1つの選択肢です。
痛みが非常に強いようなら、腎機能の低下があるため、NSAIDsは避け、トラマドールを検討してもよいでしょう。ただし、トラマドールはせん妄リスクがあるため、少量から試すのがよいかもしれません、
また、せん妄リスクのある薬剤「オロパタジン」を服用していますが、服用理由がはっきりしませんでした。リスク最小化の観点から、手術に向けて、一時休薬を提案してもよいと思われます。
もし抗ヒスタミン薬が必須の場合は、腎機能に合った用量へ減量するか、非鎮静性であるフェキソフェナジンやビラスチンなどへの変更がよいでしょう。
さらに、入院時の採血で、低カリウム傾向が認められました。芍薬甘草湯に含まれるカンゾウの副作用が原因として考えられます。「足のつり」に使用しているため、必要時のみの使用へ変更してもよいでしょう。
Na、Ca、Mgの異常はせん妄を来しやすいです。入院時にチェックしましょう。
・アセトアミノフェンを1回500mg、1日4回へ増量
・オロパタジンは中止
・芍薬甘草湯は頓服使用へ
せん妄への治療的介入
術後、病棟に戻ってから、以下のような症状・問題が生じ、他職種カンファレンスで議題にあがりました。
①夜間に「迎えが来たから家に帰らないと」「お弁当を作らなきゃいけないの」などと訴え離床しようとする(不穏)
②昼間はうとうとしている(昼夜逆転)
③疼痛によるリハビリ拒否。リハビリ以外の時間帯での疼痛の訴えはない。
①②より、せん妄の状態と考えられます。しっかり夜間に睡眠が取れるよう、調整が必要です。高齢者にも安全に使用できる睡眠薬である、レンボレキサントやラメルテオンの定時内服がよいでしょう。
不眠時の追加薬も考えておきます。
【不眠時指示の例】
定時内服:レンボレキサント5mg
不眠時は以下を30分以上あけて順次追加
追加1.レンボレキサント5mg
追加2.トラゾドン25m
追加3.トラゾドン25mg
定時内服:ラメルテオン8mg
不眠時は以下を30分以上あけて順次追加
追加1.レンボレキサント5mg
追加2.レンボレキサント2.5mg
追加3.レンボレキサント2.5mg
💡不穏症状が強い場合には、鎮静作用の強い薬剤を使用します。不穏によく使用される薬剤の特徴をまとめました。
| 特徴・注意点 | 禁忌 | |
|---|---|---|
| クエチアピン | 鎮静作用が強く、150mgまで増量可能。半減期が短いため、持ち越しが少なく、不穏時の追加がしやすい。 | 糖尿病 |
| ブロナンセリン | 鎮静作用はほとんどない。抗幻覚作用は強い。錠剤だけでなく貼付剤もあり、内服困難な患者にも使用しやすい。 CYPによる相互作用があるため注意。 |
CYP3A4を強く阻害する薬剤との併用禁忌 |
| リスペリドン | 鎮静作用は軽度だが、抗幻覚作用が強い。錠剤だけでなく液剤もあるため、服薬拒否のある患者にも使いやすい。 腎排泄のため、高齢者や腎機能低下患者には低用量から使用する。 |
– |
| アセナピン | 鎮静作用と抗幻覚作用のどちらも得たい場合に有効。 舌下錠かつ苦味があるため、服薬に協力が得られない場合は使用しにくい。 |
– |
③の情報から、リハビリ前には追加の鎮痛薬が必要だと判断されます。腎機能がやや低下しているため、NSAIDsの内服は慎重に考えたいところです。トラマドール錠はせん妄リスクがあるため、せん妄症状が認められる中で開始するのは難しいかもしれません。
リハビリの時間をなるべく集中させ、NSAIDsの頓服使用を提案してみてはいかがでしょうか。
・レンボレキサント5mgを定時内服開始、不眠時はレンボレキサント5mgまたはトラゾドン25mgを追加。
・セレコキシブ錠100mgを1日1回、リハビリ前に使用(必要に応じてPPIも併用)
薬剤変更後、レンボレキサント10mgの服用で夜間に睡眠が取れるようになり、不穏は落ち着いていきました。疼痛はセレコキシブ100mg(1日1回)の追加でリハビリがおこなえるようになり、時間経過とともに疼痛の訴えが減ってきたため中止できました。
せん妄症状の経過をフォローし、必要ならさらに薬剤調整を続けましょう。
せん妄に対して環境調整が有効な事例
せん妄の治療には、環境調整も大切です。環境調整の例について考えてみましょう。
86歳男性 体重65kg
既往:膵臓がん、認知症、糖尿病
膵臓がんに伴う疼痛コントロールのためA病院に入院していたが、訪問診療の手配を整え、1ヶ月前に自宅へ退院した。数日前から、夕方以降にソワソワと落ち着きのない様子、夜間に「虫がたくさんいるから追い払って」と言ったり誰かと話しているような独り言を言ったりする様子、日中に元気がなくぼーっとするという変化が出てきた。薬剤師が訪問した際に家族から報告があり、訪問看護師とともに対応について検討することとなった。フェンタニルテープ4mg 毎日10時貼り替え
オキノーム散10mg 痛いとき1回1包 30分あけて使用可能
アセトアミノフェン錠500mg 1回1錠 毎食後
ルビプロストンカプセル12μg 1回1Cp 朝夕食後
センノシド錠12mg 便秘時 1回1錠
インスリンリスプロ 毎食前 6-8-8単位
インスリングラルギン 寝る前 6単位
レンボレキサント5mg 1回1錠 寝る前
【会話例】
認知症患者は痛みの訴えが少ないことがあるため、表情・仕草・機嫌・息づかいなどの情報から総合的に判断する。
せん妄予防・治療のための環境調整
せん妄を予防・治療するための環境調整としては、以下のようなものが挙げられます。薬剤師も、患者のベッドサイドや自宅へ伺う場合には、確認する習慣をつけておくとよいでしょう。
・時間を意識できる環境をつくる
カレンダー、時計などを目に見えるところへ設置し、日付や時間を意識できるようにしましょう。テレビ、ラジオなども見当識の維持に役立ちます。
・日中に適度な刺激を与える
朝にはカーテンを開け、光を取り入れるようにします。また、患者個人の生活パターン(朝起きたら水で顔を洗う、歯を磨く、散歩をするなど)を、体調に無理のない範囲で維持することも大切です。
メガネや補聴器など、必要な補助具を装着するようにします。
・不安を助長しない環境をつくる
自宅ではあまり関係ないかもしれませんが、モニターのアラーム音が大きいことや、治療機器に囲まれていることなどにより不安が助長される場合があります。音は小さく設定したり、治療機器はあまり目に入らないところへ置いたりするとよいです。
・対人コミュニケーションをおこなう
本人の意向や体調にもよりますが、家族や医療スタッフとのコミュニケーションで安心感が得られ、せん妄の改善に有効な場合があります。
日中の午睡が長すぎる影響で昼夜逆転している場合には、覚醒を促す意味でも有効です。
・ご家族にカーテンを開け閉めしてもらい、1日のリズム作りをおこなう。
・時計、カレンダーなどを患者の正面の目に入りやすい位置に移動する。
・不穏時指示:リスペリドン0.5mg、1日3回まで、30分あけて
まとめ
今回の記事では、せん妄についての2つの事例を元に、薬剤の調整・環境の調整による予防・治療の方法についてお示ししました。
せん妄の発症には、身体的・薬理的・環境的な要因が複雑に関わっています。薬剤師は、患者の全身状態や使用薬から総合的に判断し、せん妄を悪化させる要因を「減らす」「整える」「防ぐ」視点で介入することが重要です。もちろん、他職種やご家族との情報共有も欠かせません。
今回の記事が、皆さん業務の中でせん妄への介入を考えるきっかけとなれば幸いです。次の記事では、せん妄の促進因子でもある「不眠」について、より詳しく解説していきたいと思います。
