病院と薬局、どちらが自分に合っているだろうか?病院に転職してみたいけど、どんな働き方をしているのだろう?と、迷いや疑問をお持ちの薬学生さん、薬剤師さんは多いです。
調剤薬局やドラッグストアの薬剤師とは、日頃から自分が患者として接する機会もありますが、病院で薬剤師と接する機会はあまりないでしょう。少々「謎に包まれた」ような存在でもある病院薬剤師について、急性期病院の場合と、回復期・慢性期病院の場合とで分けてご紹介したいと思います。
まずは、急性期病院の薬剤師の働き方、業務内容などを取り上げます。
急性期・回復期・慢性期とは?
急性期・回復期・慢性期病院という言葉を耳にすることは多いと思いますが、実際にどのような違いがあるのかご存じでしょうか?
これは、病床の機能に応じた呼び方です。実際には、「急性期病床と回復期病床のどちらも持っている」といった病院も多くありますが、メインの機能に応じて呼び方が変わっています。
急性期病院
急性期病院は、発症直後・手術前後・病状が不安定な時期の患者さんに対して、状態の早期安定化を目指す医療を担う病院(病棟)です。
救命救急病棟、集中治療室(ICU)、ハイケアユニット(HCU)、新生児集中治療室、新生児治療回復室、小児集中治療室、総合周産期集中治療室などは、とくに「高度急性期病床」と分類されます。
救急搬送の受け入れ、周術期管理、感染症や心不全など疾患の急性増悪への対応など、スピードと判断力が求められる場面が多いのが特徴です。
薬剤師の業務としては、抗菌薬適正使用支援、TDM、ハイリスク薬管理、病棟での処方提案など、短期間で濃い介入が求められる傾向があります。限られた時間の中で的確に状況を把握し、その場で判断するスピード感と臨床判断力が求められる環境です。
回復期病院
回復期病院は、急性期治療を終えた患者さんに対して、在宅復帰・社会復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する病院です。厚生労働省も、回復期は「急性期を経過した患者への在宅復帰に向けた医療やリハビリテーションを提供する機能」と定義しています。
代表的な例として、脳梗塞や大腿骨頸部骨折の後など、ADLの回復に時間がかかるような、リハビリを集中的に行う患者さんが多く入院します。
薬剤師としては、急性期から引き継いだ治療を安全に継続しながら、リハビリの進み具合に応じて、自宅での生活を見据えた内服の簡素化や退院支援に関わる場面が多くなります。
治療を「整える・つなぐ」といった視点で、生活を見据えた調整力が求められます。
慢性期病院
慢性期病院は、長期にわたる療養が必要な患者さんを支える病院(病棟)です。厚生労働省の病床機能報告でも、慢性期は「長期にわたり療養が必要な患者を入院させる機能」と整理されています。重度の意識障害、難病、筋ジストロフィーなど、継続的な医療管理が必要な患者さんが多く入院しています。
病院薬剤師の業務では、急性期のような目まぐるしい治療変更は比較的少ない一方で、長期的な安全性管理・多剤併用の見直し・嚥下機能に応じた剤形調整など、じっくり患者さんと向き合う支援が必要です。
短期的な成果よりも、安定した状態を維持するために、継続的な観察力と丁寧さが求められます。
急性期病院の特徴とは?
急性期病院は、患者さんの状態変化が大きく、治療の展開も早い環境です。ここでは、病院薬剤師の働き方に影響しやすい、急性期病院ならではの特徴を整理します。
重症系病棟がある
急性期病院では、ICU・HCU・救命救急病棟など、重症患者さんを受け入れる重症系の病棟を持ちます。こうした病棟では、循環動態や腎機能などが短時間で変化しやすく、薬剤の投与量や投与速度の調整が頻回に必要です。
薬剤師には、抗菌薬や鎮静薬、昇圧薬などの適正使用を支える役割が求められ、一般病棟以上に迅速な判断と他職種連携が必要になる場面が多くなります。
基本的に夜勤や当直がある
急性期病院は24時間体制で救急・入院対応を行うため、薬剤師も夜勤・当直・オンコールなどの勤務体制を取っていることが多いです。
施設によって運用は異なりますが、夜間帯には次のような業務が発生します。
- 救急外来、緊急入院への薬剤対応
- 緊急手術やICU入室に伴う薬剤供給
- 注射薬・麻薬・抗菌薬の払い出し対応
- 当直医や病棟からの薬剤相談への対応
転職を考える際は、「夜勤/当直の有無」だけでなく、頻度、体制(1人/複数人)、手当まで確認しておくと、入職後のギャップを減らしやすくなります。
部署ごとに業務が縦割りのことが多い
急性期病院は業務の幅が広く、高い専門性も求められるため、薬剤部内の業務が部署別に全く異なることが少なくありません。
たとえば、以下のような部署が挙げられます。
- 調剤室(内服・外用)
- 注射室(注射薬調剤)
- 抗がん剤調製室
- 製剤室
- DI室
- 病棟担当
部署ごとに分けるという縦割りの体制には、業務効率や専門性を高めやすいメリットがあります。一方で、配属によっては経験できる領域に偏りが出ることもあるため、転職時にはローテーションの有無や異動の頻度も確認しておくとよいでしょう。
チーム医療が充実している
急性期病院では、患者さんの状態変化が速く、複数の医療職が同時に関わるため、チーム医療の場面が非常に多いのも特徴です。病院薬剤師は、医師・看護師・管理栄養士・リハビリスタッフ・臨床検査技師などと連携しながら、薬物療法の最適化を支えます。
関わる機会が多いチームの例としては、以下が挙げられます。
- ICT / AST(感染対策・抗菌薬適正使用)
- NST(栄養サポート)
- 緩和ケアチーム
- 褥瘡対策チーム
- 周術期管理チーム
「病棟での提案」「カンファレンスでの発言」「情報提供」「回診時のディスカッション」など、他職種と関わる場面が多く、コミュニケーション力と臨床判断力の両方が求められます。他職種連携を通じて、成長しやすい環境ともいえます。
研修体制を整備している傾向にある
急性期病院は、新人薬剤師の採用人数が比較的多い傾向にあり、業務の幅も広いため、教育・研修体制を整えている施設も多いです。
最近では、薬剤師の卒後研修制度を義務化するという議論もおこなわれており、しっかりとした研修体制のある病院でトレーニングをする重要性が認識されていると言えるでしょう。
急性期病院への就職・転職を考える若手薬剤師にとって、給与や病床数、診療科以外にもチェックしておくべき点はいくつかあります。
「どんな研修があるか」「誰がどのように教えてくれるか」「資格取得を目指せる環境かどうか」などは、働きやすさや成長スピードに直結するため、重要なポイントです。
急性期病院の薬剤師の働き方
急性期病院の薬剤師の働き方は、配属部署によって大きく変わります。患者さんと直接関わる機会が多い部署もあれば、中央業務を通して病院全体の診療を支える部署もあります。まずは、急性期病院で働く薬剤師に多い働き方の特徴を見ていきましょう。
配属部署次第では患者と接することがほとんどない
急性期病院では、薬剤部内でも部署によって業務が細かく分かれていることが多く、配属部署によっては患者さんと直接接する機会が少ない働き方になります。
たとえば、調剤室や注射室、DI室などの部署では、院内スタッフとの関わりが中心になりやすい傾向があります。
これらの業務は、患者さんと直接話す機会は少なくとも、病院全体の薬物療法を支える重要な役割です。「医療従事者なのに、物足りない」と感じることもあるかもしれませんが、中央業務は急性期医療の「縁の下の力持ち」のような役割であり、正確さとスピードがそのまま医療の質につながる重要な役割です。
最近では、外来で化学療法をおこなう患者に対して「薬剤師外来」をおこなっている病院も増えてきています。病棟を担当しなくても、患者さんと接する機会はゼロではありません。
病棟、チーム配属なら他職種との距離も近い
病棟やチーム医療に関わる配属になると、働き方は大きく変わります。
たとえば病棟では、医師のカンファレンスへ参加したり、看護師やソーシャルワーカーなどとの退院調整カンファレンスで薬剤の管理について助言したりと、患者だけでなく他職種との連携も密に必要です。
また、ICT/AST、NST、緩和ケア、褥瘡対策などのチームに所属すると、カンファレンスへの参加や回診同行を通じて、その場で意見や提案を求められるなど、薬剤師の専門性を発揮する機会が増えます。
急性期病院の病棟・チーム配属は、単に「薬を出す人」ではなく、薬物療法の一員として治療方針に関わる実感を得やすい働き方です。
新しい治療の導入が多い
急性期病院は、重症患者さんや専門的な治療を必要とする患者さんを多く受け入れるため、新しい治療や新規採用薬の導入が比較的多い傾向があります。そのため、急性期病院の薬剤師には、日常業務をこなしながらも、情報をアップデートし続ける姿勢が重要です。
常に新しい知識が入ってくる分、慣れるまでは負担を感じることもあります。ただ、裏を返せば、急性期病院は成長実感を得やすい職場でもあります。
入院から退院までスピード感がある
多くの急性期病院は、病名と治療内容で医療費 が決まる「DPC」という制度の対象です。制度上、在院日数が長くなるほど病院経営上の効率が下がりやすいため、急性期病院では早期の治療方針決定や退院・転院支援が重視される傾向があります。
つまり、急性期病院では患者さんの入院期間が比較的短く、病態が安定し、治療方針の決定や薬剤調整が済み次第、退院または転院するという流れになっているということです。そのため、薬剤師の業務も自然とスピード感のある対応が求められます。
実際、次のような一連の流れを1〜2週間という短期間で対応することも、少なくありません
- 入院時の持参薬確認
- 初期治療の処方確認、提案
- 副作用や効果のモニタリング
- 状態改善に応じた減量、切替提案
- 退院指導や情報提供
このスピード感が「大変」「忙しい」と感じる要因でもありますが、治療による変化を間近で見て介入の手応えを感じやすいのも、急性期ならではの魅力です。
「忙しくても、変化のある環境で成長したい」という方には、やりがいを感じやすい働き方といえるでしょう。
病院薬剤師の1日
病院薬剤師がどのような1日を過ごしているのか、病棟担当者の場合と、薬剤師レジデントの場合とでご紹介します。
実際の各施設での業務内容は、病院の規模・薬剤師の人数、配属部署などによって大きく異なるため、就職希望の病院がある場合には直接ご確認ください。ここでご紹介するのは一例ですが、病院薬剤師の仕事をイメージするにあたって参考になれば幸いです。
病棟担当Aさんの場合
🕣8時半〜10時ごろ:カルテチェック
今日入院してくる患者さんについて、入院の目的や持参してくる薬剤、休薬や用量調整が必要か、どのような指導を行うかなど、情報収集・検討をおこないます。また、継続して入院している方の経過や検査値のチェックもします。
🕙10時ごろ〜12時:持参薬の確認
患者さんと面談をおこない、持参薬の使用状況や症状を確認します。持参薬のデータをカルテ上に入力し、減量や変更の提案なども同時におこなっていきます。限られた時間で持参薬の入力と処方の提案を済ませてしまう必要があるので、事前の情報収集がとても大切です。
🕛12時〜13時:昼休み
🕐13時〜14時半:服薬指導やフォローアップ
婦人科病棟は、手術、抗がん剤治療の方が多いです。抗がん剤治療をおこなっている患者さんや、医療用麻薬を使用している患者さんのところへ訪問し、副作用の状況、治療の効果などを確認していきます。必要に応じて、医師へ処方提案などもおこないます。合間には、医師や看護師からの相談にも対応するので、午後は慌ただしいです。
🕝14時半〜15時:入院患者の予定注射のチェック
担当病棟の、翌日分の注射処方箋をチェックします。ここでも、「抗菌薬の用量が多いかも」など疑義すべき点を見つけたら、医師に連絡します。
🕒15時ごろ〜17時:カルテ記載
今日1日で面談した患者さんのカルテに、薬剤師としての記録を書きます。医師へ提案した内容がどうなっているかも確認し、明日以降でどうするかなど計画を立てます。
薬剤師レジデントBさんの場合
🕣8時半〜12時:抗がん剤の調製
午前中は、抗がん剤の調製やレジメンのチェックなど、日によっていろいろな業務をします。
今日はミキシングの担当なので、投与が確定した方から順番に調製していきます。無心になって没頭できるので、時間が経つのがあっという間ですし、調製業務は楽しいです。
🕛12時〜13時:昼休憩
🕐13時〜14時:面談をおこなう患者情報の収集
午後からは病棟業務です。まずは自分で情報収集・課題の設定をおこない、指導内容を考えます。その後、指導薬剤師の方にチェックしてもらい、必要な準備を整えます。
🕑14時〜17時:患者面談・カルテ記載
実際に患者さんに指導をおこない、必要な場合には看護師・医師にも情報共有や提案をします。指導薬剤師から服薬指導についてのフィードバックをもらい、「うまくできていない」「考察が甘い」と落ち込むこともあります。ですが、少しずつできることが増えてきたな!と実感できる瞬間は、達成感を感じます。
カルテ記載をおこない、翌日以降のフォローアップ計画を立てて終了です。
まとめ
急性期病院で働く薬剤師の働き方やその特徴について、イメージすることはできたでしょうか?
急性期病院の薬剤師は、配属部署によって働き方が大きく異なります。中央業務中心で病院全体を支える役割もあれば、病棟・チーム配属で他職種と密に連携しながら薬物療法に深く関わる働き方もあります。
自己研鑽の質の高さや責任感の重さなど、大変と感じる面はありますが、その分、成長の実感や介入の手応えを得やすい環境と言えます。
変化のある環境を前向きに受け止め、他職種との議論や調整を楽しめる方にとっては、やりがいを感じやすいかもしれません。一方で、じっくり時間をかけて患者さんと関わりたいと考える方にとっては、負担に感じることもあるでしょう。
次の記事では、慢性期病院で働く薬剤師についてご紹介する予定ですので、お待ちください。
