2025年11月、新しい高コレステロール血症治療薬「ネクセトール錠180mg」(一般名:ベムペド酸)が発売されました。スタチンとは異なる作用機序を持ち、スタチンが使えない患者さんや効果不十分な患者さんへの新たな選択肢として注目されています。
「名前は聞いたけど、まだ処方を見たことがない」「受け付けたときにちゃんと対応できるか不安」という若手薬剤師の方も多いのではないでしょうか。
そこで本連載では、ネクセトールを2回に分けて解説します。第1回の今回は、基本情報から作用機序、処方が想定される患者像までを整理します。第2回では副作用モニタリングや服薬指導など実務面を取り上げます。
※第2回の記事については、2026年4月頃公開予定です。
この記事でわかること
- ネクセトールの基本情報と開発背景
- スタチンとの作用機序の違い(ACL阻害・プロドラッグ特性)
- 処方が想定される具体的な患者像
ネクセトールの基本情報

ネクセトールは国内初のATPクエン酸リアーゼ阻害剤であり、米国や欧州ではすでに臨床使用されていた薬剤です。大塚製薬が2020年に米エスペリオン社から国内の開発販売権を取得し、国内第Ⅲ相試験(CLEAR-J試験)を経て承認に至りました。
以下内容は電子添文の内容の抜粋です。
薬価は作成時点の情報です。最新は薬価基準をご確認ください。
| 項目 | 内容 |
| 販売名 | ネクセトール錠180mg |
| 一般名 | ベムペド酸(Bempedoic Acid) |
| 薬効分類 | ATPクエン酸リアーゼ(ACL)阻害剤 |
| 効能・効果 | 高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症 |
| 用法・用量 | 成人に1日1回180mgを経口投与 |
| 薬価 | 薬価:371.50円/錠(2025年11月時点) |
| 承認日 | 2025年9月 |
| 発売日 | 2025年11月 |
| 投与制限 | 14日分(2026年11月末まで) |
なぜネクセトールが必要とされたのか? 開発の背景

高コレステロール血症の薬物療法では、HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)が第一選択として広く使われています。スタチンはLDL-コレステロール(LDL-C)を強力に低下させ、心血管イベントの抑制効果も確立されており、脂質管理の中心的存在です。
しかし、現場では次のような課題に直面することがあります。
- スタチンの効果が十分でないケース
最大用量のスタチンを投与しても、LDL-Cが目標値に到達しない患者さんは少なくありません。特に家族性高コレステロール血症(FH)の患者さんでは、遺伝的にLDL受容体の機能に異常があるため、スタチン単剤では管理困難な場合が多くなります。 - スタチンが使えないケース(スタチン不耐)
筋肉痛、筋力低下、CK上昇などの筋関連症状は、スタチン治療を中断・変更する大きな理由です。スタチン不耐の頻度は定義により幅がありますが、臨床的に無視できない数の患者さんが影響を受けています。
これまで、スタチンで効果不十分またはスタチンが使えない場合の選択肢としては、エゼチミブの追加や、PCSK9阻害薬(レパーサ、レクビオ)がありました。しかし、PCSK9阻害薬はいずれも注射剤であり、患者負担やアクセスの面でハードルがあります。
ネクセトールは、スタチンとは異なる作用機序を持つ「経口剤」として、この治療ギャップを埋める薬剤といえます。
添付文書上の位置づけ

ネクセトールの添付文書には、効能・効果に関連する注意として次のように記載されています。
- HMG-CoA還元酵素阻害剤で効果不十分な患者に使用する
- 副作用の既往等によりHMG-CoA還元酵素阻害剤の使用が困難な患者に使用する
- HMG-CoA還元酵素阻害剤の使用が禁忌とされる患者に使用する
また、用法・用量に関連する注意として、「HMG-CoA還元酵素阻害剤による治療が適さない場合を除き、HMG-CoA還元酵素阻害剤と併用すること」と記載されています。
つまり、原則としてスタチンとの併用が前提であり、スタチン不耐などの場合に限って単独使用が想定されているということです。
さらに、臨床成績の項目には次のように記載されています。
国内第Ⅲ相試験であるCLEAR-J試験では、スタチンの効果不十分またはスタチン不耐の高LDL-C血症患者96例を対象に、ネクセトール180mg群とプラセボ群を比較しました。12週投与後のLDL-Cのベースラインからの変化率は、プラセボ群の-3.46%に対してネクセトール群で-25.25%と、統計学的に有意な差が示されています(p<0.001)。
なお、大塚製薬のニュースリリースでは、本試験において「安全性と忍容性も良好で、重篤な有害事象は認められませんでした」とされています。
参考:大塚製薬ニュースリリース「高コレステロール血症治療薬『ネクセトール®錠』の製造販売承認取得について」(2025年9月19日)
作用機序:スタチンとの違いを理解する

スタチンとネクセトールは同じコレステロール合成経路に作用しますが、阻害するポイントが異なります。経路の上流・下流の違いを確認しましょう。
コレステロール合成経路における作用点の違い
肝臓でのコレステロール合成は、クエン酸回路から供給される「クエン酸」を出発点としています。大まかな流れは以下のとおりです。
クエン酸
→〔ATPクエン酸リアーゼが作用〕→ アセチルCoA
→ HMG-CoA
→〔HMG-CoA還元酵素が作用〕→ メバロン酸
→ … → コレステロール
ネクセトール:ATPクエン酸リアーゼ(ACL)を阻害(スタチンより上流)
いずれも肝臓でのコレステロール合成が減ることで、代償的に細胞表面のLDL受容体が増加し、血中LDL-Cの取り込みが促進されてLDL-C値が低下する点は共通しています。
筋肉に作用しにくい仕組み(プロドラッグ特性)

ネクセトール作用機序イメージ
ネクセトールのもう1つの重要な特徴は、その活性化の仕組みです。
ネクセトールはプロドラッグであり、肝臓に存在する極長鎖アシルCoAシンテターゼ1(ACSVL1)という酵素によって活性体に変換されます。ACSVL1は肝臓に多く発現する一方、骨格筋にはほとんど存在しません。
このため、ネクセトールは肝臓では活性化されるが、筋肉ではほとんど活性化されないという特性を持ちます。スタチンによる筋関連副作用は、筋肉での薬理作用が関与すると考えられており、ネクセトールではこのリスクが低減されることが期待されます。
処方が想定される具体的な患者像
実務的には、以下のような患者さんでネクセトールの処方が見込まれます。
①スタチン(±他の脂質低下薬)でもLDL-C目標未達の患者
最大耐用量のスタチンで治療していてもLDL-Cが目標に届かない場合、エゼチミブなどの追加療法を行ってもなお不十分であれば、ネクセトールを上乗せすることでさらなるLDL-C低下が期待されます。
※実臨床ではスタチンにエゼチミブを併用しているケースが多いでしょう。
→ 参考:動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版 p121,125など
②スタチン不耐の患者
筋肉痛などの副作用でスタチンの継続が困難な患者さんでは、エゼチミブ+ネクセトールの組み合わせや、ネクセトール単独が選択肢となります。
③注射剤を避けたい患者
PCSK9阻害薬(レパーサやレクビオ)は有効性が高いものの、注射剤であることから導入を躊躇する患者さんもいます。経口剤であるネクセトールは、注射を希望しない患者さんへの代替として提案しやすい選択肢です。
④家族性高コレステロール血症(FH)の患者
ヘテロ接合体FHでは、既存治療に上乗せしてネクセトールを使用するケースが考えられます。一方、ホモ接合体FH(HoFH)については使用経験がないため、治療上やむを得ない場合のみLDLアフェレーシス等の補助として適用を考慮するとされています。
(補足:RMPには、HoFH患者を対象とした臨床試験データは国内外ともになく、HoFHにおける安全性は確立されていない点が「重要な不足情報」として記載されています。)
参考:ネクセトール錠180mg 医薬品リスク管理計画書(RMP)
まとめ
ネクセトールはまだ新しい薬ですが、スタチン治療の課題を補う選択肢として、今後処方に出会う機会は増えていくことが予想されます。そのときに慌てないよう、押さえておきたいポイントは以下の3つです。
②原則はスタチン併用で、スタチン不耐など“適さない場合”に単独も想定
③処方が来やすいのは「スタチンで不足」「スタチンが使えない」「注射剤回避」「FHで上乗せ」
次回は、実際に処方が来たときに必要な副作用モニタリング、服薬指導、処方監査のポイントを解説します。
