せん妄とは?薬剤師が知っておくべき基礎知識とリスク因子

せん妄の患者さんのイメージ画像 キャリア&スキル

「この薬はせん妄リスクが高い」「ご高齢の方だから、せん妄に気をつけないと」など、「せん妄」について評価した経験のある薬剤師の方は多いと思います。しかし、実際に「せん妄」がどのような状態を指すのか、しっかり理解できているでしょうか?ここで改めて、せん妄について振り返ってみましょう。
自信を持って「せん妄予防・せん妄治療」に取り組むために、この記事が参考になれば幸いです。

せん妄とは?

まずは、せん妄にまつわる基礎知識をまとめました。

せん妄の定義・症状

身体疾患、薬剤、手術などが原因で、軽度〜中等度の意識障害をきたした状態が「せん妄」です。

せん妄による意識障害では、以下のような症状が見られます。

・幻視、幻覚
「そこに猫がいる」「天井に虫がたくさんいる」など、幻視や幻覚が生じます。

・興奮、易怒性
ふだんよりも怒りっぽくなり、時には暴力を振るうこともあります。

・不眠、昼夜逆転
昼夜逆転し、夜間に興奮や幻覚がみられやすいのもせん妄の特徴です。

・見当識障害
日にちや場所がわからなくなることを見当識障害と呼びます。

・日内変動
日中はとくに問題がないのに、夜間だけ見当識障害が出るなど、1日の中で症状に波があります。1日を通して評価することが大切です。

せん妄の評価をするためには、「普段はどのような状態か」を知っておくことも大切です。
1日中意識障害を呈している場合、意識障害が重度の場合などは、別の疾患の可能性も考える必要がありますので注意しましょう。

せん妄の種類

せん妄には、過活動型せん妄低活動型せん妄、そして両者が混在する混合型せん妄があります。

・過活動性せん妄
興奮、幻覚、妄想などの陽性症状が強いせん妄です。点滴などを自分で抜いてしまったり、幻視が見えたり、大声を出したりします。急にベッドから起きあがろうとして転倒するなど、事故にも繋がりやすいです。皆さんがイメージするせん妄はこちらではないでしょうか。

・低活動性せん妄
気力がなく、ぼーっとしていたり、反応が乏しくなったりします。日にちや場所のわからなくなる見当識障害も、低活動性せん妄で出やすいです。低活動せん妄に対する治療法はまだ確率していませんが、薬剤的な介入により悪化することがある点に注意しましょう。非薬物療法や薬剤整理、リハビリなどを積極的におこないます。

・混合型せん妄
日中はぼーっとしているのに、夜間になると興奮して大きな声を出すなど、1日の中で過活動性せん妄、低活動性せん妄の両方があらわれます。

せん妄によるデメリット

ここまで、せん妄についての症状や分類をお伝えしてきました。では、なぜせん妄を起こさないように気をつける必要があるのでしょうか?

まず、患者に及ぼすデメリットを挙げてみます。
たとえば、せん妄により患者に混乱が生じ予定の検査がおこなえないなど、治療が滞ることが考えられるでしょう。また、夜間のせん妄により安静を保てず転倒するなど、思わぬ事故の元にもなりえます。

また、家族にとっても、せん妄は悪影響です。いつもと状態の違う患者を見て不安になるなど、精神的な負担になってしまいます。

医療者の立場でみても、せん妄によるデメリットは多いです。せん妄により、患者が自身の症状について正しく訴えることができなければ、評価が難しくなります。暴力行為があれば、医療者の心身にストレスがかかるでしょう。入院が長引くことで、医療費の増大も懸念されます。

さまざまな観点から、せん妄を「起こさないこと」つまり「予防すること」が重要なのです。

せん妄のリスク因子

せん妄のリスク因子は、その特徴から3つに分類されます。「焚き火」によく例えられます。
焚き火をするための「薪」が準備因子です。火をつけるための「ライター」が直接因子、そして火を大きくする「油」が促進(誘発)因子にあたります。

せん妄予防のために介入しようとする場合には、リスク因子がどれに分類されるのか理解し、介入していく必要がありますので、しっかり覚えておきましょう。

準備因子

準備因子は、その人個人の持つ「せん妄が起こりやすい要因」であり、変えようのないものです。

【準備因子の例】
年齢(70歳以上)、脳の器質的疾患(脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷など)、認知症、アルコール多飲歴、全身麻酔の手術、せん妄の既往、リスクとなる薬剤の服用

せん妄のリスクになるからといって、年齢は変わりませんし、アルコール多飲の習慣をなかったことにはできません。これらの準備因子があった上で、どのように予防・治療をしていくかが重要です。

直接因子

直接因子は、せん妄の引き金となりうる要因のことです。

【直接因子の例】
薬剤、手術、アルコール(離脱)、身体疾患

手術をする、新しい薬剤を始める、心身の不調など、入院の目的・契機となるような病状の変化そのものが、せん妄の要因になっているといえます。
薬剤師としては、新しい薬剤が始まるとき、「せん妄のリスクが高いかどうか?」をチェックし、看護師や家族と情報共有をおこないましょう。せん妄症状をいち早くキャッチできるような環境づくりに、寄与することができます。

促進(誘発)因子

せん妄を誘発したり、悪化・遷延させる要因が促進(誘発)因子です。せん妄が生じている場合は、促進因子を取り除くことができないかどうか、考えたいです。

【促進(誘発)】
環境の変化(入院、光、音など)、身体的な苦痛(発熱、便秘、疼痛、不眠、身体拘束、ドレーンやルート、脱水など)、精神的な苦痛(不安、抑うつなど)

入院そのものがせん妄を誘発する、ということは、病院薬剤師なら必ず知っておきたいポイントです。一方で、自宅療養中にも、せん妄は起こりえます。
入院しているか否かに関わらず、せん妄が生じた場合は「最近始まった薬はないか?痛みが悪化しているのではないか?発熱や便秘はないか?」など、促進因子を積極的に探してみましょう。

認知症とせん妄との違いは?

「日にちや場所がわからなくなる」という見当識障害が、せん妄症状の1つです。しかし、見当識障害は認知症の症状の1つでもあります。
「高齢の患者さんだと、認知症なのか、せん妄なのか、わからない!」「元々認知症のある方なので、せん妄なのかいつも通りなのかわからない!」と悩んでしまう方も少なくありません。2つの違いについて簡単にご紹介します。

せん妄 認知症
発症のスピード 急に発症する ゆっくり進行する
日内変動 あり
(とくに夜間に悪化しやすい)
少ない
意識障害 あり なし
幻覚・幻視 幻視が比較的多い 少ない

また、認知症の方がせん妄を起こしているかどうかの判断も難しいでしょう。環境調整などの対策も似ているため、「区別しなくていいのでは?」と考える方もいるかもしれません。
せん妄は、身体管理と直結する問題です。脱水、感染症、不眠、便秘などの促進因子によって悪化している場合、適切な治療介入でせん妄は改善します。
認知症の方であっても、「入院前は、夜眠れていたのか」「排便の頻度はどのくらいだったか」など、以前の状態を確認、比較することが大切です。「ご自宅・施設ではどのような対応をしていたのか」など、対応の方法を確認し、入院中も同じように対応することも必要になります。

薬剤師としてチェックしたいのは、薬の自己管理をしている患者の「用法用量が合っているか」「残数が合っているか」「薬効がわかっているか」という点です。「認知症と診断されていない=認知症ではない」とは限りません。元々の認知機能がどの程度か、薬剤師の目線でもチェックしましょう。

せん妄リスクのある薬剤とは?

薬剤師として、どのような薬剤師にせん妄リスクがあるのか、しっかり覚えておきましょう。せん妄リスクの高い薬剤の中で変更・中止の可能なものがないかアセスメントし、提案することが大切です。

ベンゾジアゼピン受容体作動薬 代表的な薬剤(例)
抗ヒスタミン薬 ジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、ヒドロキシジン、ファモチジン、シメチジンなど
抗うつ薬(とくに三環系) アミトリプチン、イミプラミン、パロキセチン、デュロキセチンなど
抗精神病薬 オランザピン、クロザピン、レボメプロマジンなど
抗コリン薬 トリヘキシフェニジル、ビペリデン、ブチルスコポラミンなど
副腎皮質ステロイド プレドニゾロン、デキサメタゾン、ベタメタゾンなど
抗パーキンソン病薬 レボドパ、プラミペキソール、アマンタジン、ロピニロール、ブロモクリプチンなど
抗てんかん薬 バルプロ酸、ゾニサミド、カルバマゼピン、フェニトインなど
鎮痛薬 モルヒネ、フェンタニル、オキシコドン、トラマドールなど

たとえば、ファモチジンを使用している場合、本当に胃薬の必要な状況なのか、腎機能からみて過量ではないかなどを確認します。消化性潰瘍の既往がなく、消化性潰瘍のリスクのある薬剤(アスピリン等)を使用していないなら、中止を提案しても良いでしょう。
一方、医療用麻薬の使用はせん妄リスクではありますが、だからといって中止もできません。必要な薬剤は継続し、環境調整などの非薬物療法をしっかりおこなう、促進因子を減らすなどで対策します。

抗コリン作用を持つ薬剤は、せん妄のリスクが高い代表例です。抗コリン薬については、日本老年薬学会の開発した「日本版抗コリン薬リスクスケール」も参考になりますので、ご覧ください。

せん妄への介入方法

せん妄について知識を深めることができたでしょうか。次に、せん妄へ介入するために必要なステップをご紹介します。

せん妄リスクの評価

まず、患者の準備因子や、これから生じうる直接因子について評価しましょう。ここで、せん妄予防のための薬剤調整や、患者・家族への説明などをおこないます。
せん妄リスクの評価と同時に、高齢の患者では、認知機能のチェックもおこないたいです。長谷川式簡易知能評価スケールは、日常的に使用するには少し煩雑ですので、以下のようなツールを活用してみてください。

・初期認知症兆候観察リスト(OLD)
・NM式老年者用精神状態尺度(NMスケール)

他職種との情報共有

薬剤師として患者と接する時間は、ごく短時間です。せん妄の評価をするためには、1日を通しての意識状態の変化を確認しなければなりませんので、他職種との情報共有が必ず必要になります。

夜間はどのような様子か、リハビリに意欲的に取り組めているか、見当識に問題はないかなど、さまざまな職種の視点から評価しましょう。
薬剤師としては、「受け答えや意識状態に変化はないか」「不眠・便秘・吐き気などせん妄の促進因子になりうるような副作用を持つ薬はないか?副作用の対応はできているか?」をしっかり確認するとよいのではないでしょうか。

薬物療法・非薬物療法

せん妄の予防・治療のための介入方法としては、大きく薬物療法と非薬物療法に分けられます。
具体的な方法については、次の記事で症例とともにご紹介しますので、楽しみにお待ちください。

まとめ

なんとなく言葉を使ってはいても、じつは詳しいことをあまり理解できていない方も多い「せん妄」の基礎知識についてまとめました。せん妄に適切に介入するために、薬剤師としてどのような点に注目すべきか、知っていただけましたか?

せん妄は、患者本人だけでなく、家族や医療者にも大きな影響を与えます。他職種と協働しながら、薬剤師もせん妄のリスク評価や情報共有を通じて、せん妄予防・治療に介入することが大切です。
次回の記事では、さまざまな症例を元に、せん妄予防・治療の薬物療法、非薬物療法についてご紹介します。

 

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