見落としがちな薬剤相互作用~CYP酵素と薬剤相互作用シリーズ4(最終)

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CYPによる薬物代謝のメカニズムや相互作用について解説するシリーズ全4回の最終記事として、臨床現場で見落とされがちな、しかし重要な薬剤相互作用について実例をご紹介しながらご説明していきたいと思います。

これまで3回に渡って、CYPの関わる薬物相互作用の考え方や実例について紹介してきました。
「少し難しい」「なかなか見つけられない」と思われがちな相互作用ではありますので、まずは頻度の高いケースを中心にみていくのがよいでしょう。
相互作用の中には、頻度は稀でも、治療結果に重大な影響を与える組み合わせもあります。
最後のステップとして実例とともにご紹介しますので、今後の業務で見かけた際は、ぜひ介入してみてください。

ケース①DOACとの相互作用

DOACは、心房細動による脳梗塞・脳静脈血栓塞栓症の予防・治療に用いる薬です。しっかり効果を発揮させなければ脳梗塞などの発症リスクを高めてしまいますし、効果が増強しても副作用発現のリスクが高くなってしまいます。

たとえば、肺アスペルギルス症に対してCYP3A阻害薬である「ボリコナゾール」を長期的に服用している患者に心房細動が見つかり、アピキサバン(商品名:エリキュース)が処方されたというケースを考えてみましょう。

アピキサバンの代謝には、CYP3A4とP-糖蛋白(P-gp)が大きく関与しています。実際、エリキュースの添付文書にも以下の記載があります。

これらの薬剤(ボリコナゾールなど)がCYP3A4及びP-糖蛋白を同時に強力に阻害するため、本剤(エリキュース)の代謝及び排出が阻害されると考えられる。

しかし、この記載だけではどの程度AUCが変化するのかわからず、医師に減量や変更の提案がしにくいでしょう。そこでインタビューフォームを見てみると、以下の記載があります。

「外国人健康成人18例を対象に、CYP3A4及びP-gpの強力な阻害剤であるケトコナゾール(1回400mg1日1回経口投与)とアピキサバン(10mg単回経口投与)を併用投与したとき、アピキサバンのCmax及びAUCの平均値はアピキサバンの単独投与と比較して、それぞれ約1.6及び約2倍に増加した」

ケトコナゾールのCYP3Aの阻害率(IR)は1.0であることがわかっていますので、以下の式に当てはめてみると、アピキサバンのクリアランス寄与率(CR)が0.5だとわかります。

ボリコナゾールのIRは0.98なので、アピキサバンと併用した場合のAUC変化率を計算すると、アピキサバンのAUCは1.96倍になると予測されました。

つまり、肺アスペルギルス症にボリコナゾールを服用している間は、アピキサバンを半量へ減量することが1つの選択肢となるでしょう。別の薬剤への変更も考えてみます

<各DOACの特徴>

アピキサバン エドキサバン リバーロキサバン
商品名 エリキュース リクシアナ イグザレルト
規格 5mg、2.5mg 60mg、30mg、15mg 15mg、10mg
代謝に関する酵素や
トランスポーター
CYP3A、P-gp P-gp CYP3A
添付文書上の併用禁忌薬 アゾール系抗真菌薬
HIVプロテアーゼ阻害薬
エンシトレルビル
DOACの中では、エドキサバンはCYP3Aに影響を受けません。エドキサバンへの変更もよいのではないでしょうか?

ケース②抗がん剤との相互作用

抗がん剤も、適切な血中濃度を維持しなければ有効かつ安全な治療はできません。「相互作用があるかもしれない」と意識しておき、その都度確認しましょう。

タモキシフェンとCYP2D6阻害薬

タモキシフェン(商品名:ノルバデックス)は、ホルモン受容体陽性乳がんの術後に、再発予防として5〜10年間服用する必要があります。ほかのホルモン剤と異なり、CYP2D6阻害薬との併用で血中濃度が大きく低下してしまうため、注意が必要です。

タモキシフェンの服用によるホットフラッシュや不眠、不安症状には、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)の有効性が報告されています。SSRIの中で注意が必要なのは、パロキセチンです。
パロキセチンはCYP2D6の阻害作用があり、タモキシフェンが活性代謝物(エンドキシフェン)へ代謝されるのを66%も阻害してしまいます。添付文書上はあくまでも「併用注意」ですが、禁忌に近い組み合わせだと考えておくのがよいでしょう。

そのほかにも、CYP2D6の阻害薬として、キニジンやアミオダロン、ミラベグロンなども知られていますが、これらがタモキシフェンの効果に対して影響を及ぼすかどうかまでは報告がありません。代替薬があるのであれば、タモキシフェンを服用中の患者には使用を避けることも検討しましょう。

分子標的薬とCYP3A

分子標的薬はさまざまな相互作用がありますが、CYP3Aに関与するものは多いです。

商品名 クリアランス寄与率(CR)
イブルチニブ イムブルビカ >0.9
エベロリムス アフィニトール >0.9
ダサチニブ スプリセル 0.8〜0.9
クリゾチニブ ザーコリ 0.7〜0.8
イマチニブ グリベック 0.5〜0.7
ゲフィチニブ イレッサ 0.5〜0.7
アキシチニブ インライタ 0.5〜0.7

ですから、CYP3Aの阻害薬と併用すると分子標的薬の血中濃度が上昇し、CYP3Aの誘導薬と併用すると効果が減弱してしまいます。

たとえば、ベラパミル(IR=0.71)とエベロリムスとの併用による、エベロリムスのAUCの変化率を計算してみましょう。

上記の式に当てはめると、エベロリムスのAUCは2.77倍と大きく上昇することが推測されます。エベロリムスを減量したり、ベラパミルを別の薬剤へ変更したりと、対応が必要です。添付文書上でも、「エベロリムスの減量を考慮する」と記載があります。
単に「血中濃度が上昇する可能性があるので」と伝えても、「しっかりがん治療をしたいので、減量はなるべく避けたい」と納得が得られないかもしれません。そこで具体的にAUCの変化率を伝えることができれば、医師も減量に納得しやすくなりますよ。

フッ化ピリミジン系や抗アンドロゲン薬とワルファリン

フッ化ピリミジン系抗がん剤がワルファリンの作用を増強させることは比較的知られていますが、抗アンドロゲン薬(エンザルタミド、アパルタミド)がワルファリンの作用を減弱されることは、あまり知られていない印象です。

フッ化ピリミジン系抗がん剤は、CYP2C9の発現量を低下させることでワルファリンの作用を増強させます。一方、抗アンドロゲン薬(エンザルタミド、アパルタミド)には、強いCYP2C9の誘導作用があり、これによりワルファリンのAUCを約50%にまで減弱させると報告されています。

抗アンドロゲン薬(エンザルタミド、アパルタミド)は半減期が長く、投与終了後も酵素誘導が持続する可能性が高いです。服用中や、服用後もしばらくの間は、こまめに採血をおこない、フォローする必要があるでしょう。
ワルファリンと抗がん剤が、別の医療機関・別の診療科から処方されている場合は、併用していることを知らない可能性もあります。調剤薬局の薬剤師からしっかり情報提供することが大切です。

まとめ

今回は、CYPを介した相互作用について解説するシリーズの最後として、稀ではあっても重要な組み合わせをいくつか紹介しました。薬剤師として、安全かつ有効な薬物療法がおこなえるよう、相互作用がないかしっかり確認するようにしましょう。
これまではCYPに注目して解説しましたが、相互作用はP-gpや薬物トランスポーターを介する場合もあります。これを機に、さまざまな相互作用について介入できるよう、チャレンジしてみてください。

参考
日本医療薬学会. 医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド
・布施 春奈 他. タモキシフェンのCYP阻害作用に関連する相互作用情報. Jpn. J. Drug Inform., 18(2): 64-71 (2016).

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