ここまで、せん妄の基礎と、症例をもとにした介入のポイントをお伝えしてきました。今回の記事では、せん妄シリーズの最後として、陥りがちなピットフォールをいくつかご紹介したいと思います。
さまざまなパターンを知り、より自信を持ってせん妄に介入できるように、参考になれば幸いです。
ベンゾジアゼピン系薬剤の使いどころ・調整時のピットフォール
ベンゾジアゼピン系薬剤は、せん妄のリスク因子として薬剤師・医師・看護師も知るところだと思います。しかし、「ベンゾジアゼピン系=絶対使ってはいけない!」と思っていると、予期せぬ失敗につながってしまうことも。
ここでは、ベンゾジアゼピン系薬剤の注意点として2つのパターンをご紹介します。
ベンゾジアゼピン系がせん妄を引き起こすメカニズム
せん妄には、アセチルコリンの欠乏、ドパミンやグルタミン酸・ノルアドレナリンの過剰が関与する病態と考えられています。
ベンゾジアゼピン系薬剤はGABA-A受容体の作動薬です。ベンゾジアゼピン系薬剤による刺激で、中枢神経の抑制が強められ、高齢者などでは注意障害や認知機能の低下が生じ、せん妄を誘発する要因となります。
また、ベンゾジアゼピン系薬剤を慢性的に投与していると、GABA受容体の感受性が低下し、GABAによって抑制されていたセロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン、アセチルコリンの感受性が亢進します。このため、ベンゾジアゼピン系薬剤を急に中断すると、これらの神経伝達物質が過剰に活動し、離脱症状として精神症状を発現すると考えられています。
パターン1. 元々ベンゾジアゼピン系を長期内服している場合
元々、ベンゾジアゼピン系薬剤を使用している方が入院してきた場合などは、無理に休薬せずに継続することもめずらしくありません。
ベンゾジアゼピン系の急な中止によるリスクとして、以下が挙げられます。
・反跳性不眠
急に服薬を中止すると、かえって以前よりも不眠症状が悪化することです。短時間作用型のベンゾジアゼピン系薬剤で生じやすい傾向にあります。
・離脱症状
不眠だけでなく、イライラや不安、焦燥感、気分の落ち込み、頭痛、悪心などの症状があらわれます。
こうしたリスクも考えた上で、中止・減量をするのか、継続をするのか判断します。
中止や減量を慎重におこなうべきケース
とくに、以下のケースでは、中止や減薬は慎重におこない、ベンゾジアゼピン系薬剤の継続も視野に入れましょう。
①うつ病などの精神疾患のコントロールの一環としてベンゾジアゼピン系薬剤を処方されているケース
減薬・中止を目指したい場合は、精神科と連携しながら慎重におこなう必要があります。
②短時間作用型や力価の高いベンゾジアゼピン系薬剤を長期投与されているケース
離脱症状を生じるリスクが高いため、急な中止は避けるのがベターです。
③検査のみなど短期間で退院することが決まっているケース
入院による環境の変化や麻酔薬の使用など、せん妄のリスクとなる要因がある中で、無理にベンゾジアゼピン系薬剤を中止しない方がせん妄リスクを減らせる場合もあります。
パターン2. アルコール依存症患者・アルコール多飲患者の場合
アルコール依存症やそれに類似する患者の場合、アルコール離脱症候群の予防や治療の目的で、あえてベンゾジアゼピン系薬剤を使用します。
アルコール離脱せん妄は、小離脱と大離脱に分けられます。
小離脱は、最終飲酒から6〜24時間後に約80%で生じるもので、振戦や痙攣発作、一過性の幻覚や見当識障害が代表的です。
大離脱は最終飲酒から48〜96時間後に、小離脱を起こした方の約10%程度で生じます。発汗、幻覚、痙攣発作、見当識障害などを呈し、場合によっては死に至る例もあります。
アルコール離脱の既往がある方や、アルコール依存症やその疑いのある方は、アルコール離脱せん妄の予防投与を検討しましょう。
施設ごとにプロトコルが定められているところもあると思いますが、ない場合は以下を参考にしてみてください。
ロラゼパム錠0.5mg 1回1錠 1日3回朝昼夕 (1〜3日目)
ロラゼパム錠0.5mg 1回0.5錠 1日2回朝夕 (4日目〜)
ジアゼパム注5mg 1日3回朝昼夕(1〜3日目)
ジアゼパム注2.5mg 1日3回朝昼夕(4日目〜)
高齢、脳血管疾患など、せん妄の準備因子を複数有する場合には、幻覚や興奮が強く出てしまうケースがあります。その場合は、ベンゾジアゼピン系だけでなく、リスペリドンなど少量の抗精神病薬を補助的に併用も検討してください。
アルコール離脱予防を検討する飲酒量
どのくらいの飲酒量ならアルコール量が多いと判断するかについて、知っているでしょうか?
1日平均で60g以上の飲酒をしている場合、「大量(多量)飲酒」とみなされます。また、本人からの自己申告の場合は、過少申告している可能性を考え、申告した量よりも多く飲酒していると考えるのが無難です。
| お酒の種類 | アルコール量 |
|---|---|
| ビール(350ml) | 14g |
| 日本酒(1合) | 22g |
| 缶チューハイ(7%、350ml) | 20g |
| ワイン(12%、ハーフボトル375ml) | 36g |
| ウイスキー(シングル、30ml) | 10g |
オピオイド調整時のピットフォール
オピオイドも、せん妄のリスクとなる代表的な薬剤です。しかし、せん妄のリスクがあるからといって、オピオイドの減量や中止は現実的ではありません。
また、オピオイドを使用している患者は、臓器機能の低下している方や併存疾患のある方がほとんどです。したがって、より一層注意してせん妄対策にあたる必要があります。
病態の変化に注意
感染症による発熱や脱水、それに伴う腎機能低下(急性腎不全)などで状態が悪化すると、相対的にオピオイドが過量となる場合があります。本人の様子、バイタルや検査値などをよく観察することが大切です。
とくに、オピオイドを増量したタイミングと重複してしまうと、せん妄が生じ、また、場合によっては呼吸抑制に陥ってしまうリスクが高いです。
病態の変化がないか、よく注意しながらフォローしましょう。
ケミカルコーピングの可能性
オピオイドのレスキュー薬は、痛みが出たときや出そうなときなどに、1日何回でも(場合により医師の指示で上限設定あり)使用できます。効果発現までの時間も非常に短いため、突発的な痛みの対処にはレスキュー薬が不可欠です。
しかし、痛みではなく、不安などの精神的な症状に使用してしまっている場合があり、この状態を「ケミカルコーピング」といいます。
レスキューの使用回数は、オピオイドのベースアップの目安として参考にしている医療従事者が多いでしょう。ケミカルコーピングの状態であることを見逃してベースアップしていくと、オピオイドが過量となり、せん妄や依存を引き起こしますので、注意が必要です。
極端にレスキュー使用回数の多い方には、「実際に痛くて使用したのはいつか」を確認するほか、なぜレスキューを使っているのか、その原因を探るようにしましょう。
たとえば、ケミカルコーピングには以下のような理由が隠れているかもしれません。
- 痛くなるのが怖くて、レスキューを使える時間になったらとにかく使っている
- 病状説明を受けて精神的につらくなり、不安や恐怖感からレスキューを使った
- 夜間に孤独感や不眠からつらくなり、レスキューを使った
- レスキューを使うと胸がスーッと楽になるように感じて、何度も使っていた
理由に合わせて、レスキュー薬以外の薬剤を使用する、臨床心理士さんの介入を依頼するなど検討が必要です。
レスキュー回数だけをみて判断するのではなく、使用状況や患者の心理なども加味して総合的に判断することで、オピオイドをうまく調整することができます。
まとめ
せん妄は、多数の因子で発症する病態であり、その予防や治療のためには薬剤の適正使用が重要です。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、高齢者や脳機能が低下した患者ではせん妄を誘発しやすく、せん妄予防の観点からは中止の判断をしたくなります。しかし、とくに長期内服患者では、離脱による反跳症状にも注意が必要です。
また、アルコール依存や多量飲酒歴のある患者に対しては、ベンゾジアゼピン系薬剤によるアルコール離脱予防がおこなわれるなど、使うべきタイミングもあります。
オピオイド使用中の患者においては、病態変化やケミカルコーピングを見逃さず、こまめなアセスメントが重要です。
今回は、「せん妄」についての最後の記事として、介入で気をつけたいポイントをご紹介しました。
せん妄に介入する際には、「薬の使い方」「病態の変化」「患者の行動・心理」などを総合的に判断することが大切です。実際の業務で、似たような症例があれば参考にしてみてください。
