体内に入った薬物が消失する「代謝」の過程には、さまざまな酵素が関係します。酸化・還元・加水分解・水和・抱合など、さまざまな方法で代謝がおこなわれますが、中でも代表的な薬物代謝酵素は「シトクロムP450(CYP)」です。薬物代謝の約8割に関わっています。
CYPによる薬物代謝のメカニズムや相互作用について、シリーズとして4回に分けてご紹介していきたいと思います。まず今回は、CYPについての基本をおさらいしましょう。
CYPとは?
CYPという薬物代謝酵素について、大まかに概要をご紹介します。
薬物代謝に関わるCYPは主に6種類
CYPは、第I相反応(酸化・還元などにより薬物の水溶性を高める反応)をおこなう薬物代謝酵素の中で、とくに中心的な役割を担っています。
ヒトには約50種類のCYPが存在するとわかっていますが、薬物代謝に関わっているのは主に以下の6種類です。
| 代表的な阻害薬 | 代表的な誘導薬 | |
| CYP1A2 | フルボキサミン メキシレチン |
オメプラゾール カルバマゼピン フェニトイン |
| CYP2C9 | アミオダロン フルコナゾール |
リファンピシン リトナビル |
| CYP2C19 | オメプラゾール フルボキサミン チクロピジン |
リファンピシン フェノバルビタール |
| CYP2D6 | パロキセチン ハロペリドール シメチジン アミオダロン |
|
| CYP2E1 | アセトアミノフェン | エタノール |
| CYP3A4 | ベラパミル シメチジン シクロスポリン アゾール系抗真菌薬 マクロライド系抗菌薬 |
ファンピシン フェノバルビタール フェニトイン |
年齢によるCYP発現量の変化
小児は、成人とはCYPの発現量も活性の強さも異なります。
出生時は、成人にはない「CYP3A7」が最も多く、生後1週間ほどをピークに消失します。CYP3A7は、CYP3A4と似たような働きをしているようです。CYP3A4は、出生後から上昇していき、5歳ごろまでに成人の発現量に近くなります。
CYP1A2や2A6は、活性の上昇まで時間がかかる点が特徴的です。CYP1A2は生後3か月目ごろ、CYP2A6は1歳ごろから上昇が見られます。
こうしたCYP発現量や活性の違いにより、小児では体重あたりのクリアランスや投与量が成人より大きくなることがあるのです。「小児は、小さな大人ではない」とよく言われますが、その理由がお分かりいただけるでしょう。
CYPの特徴
CYPは、ほかの薬物代謝酵素と何が異なるのか、特徴について解説します。
基質特異性が低い
多くの酵素は、特定の薬物にのみ反応するのですが、CYPは基質特異性が低く、1つの酵素でいくつもの薬物を代謝しています。そのため、複数の薬物を併用している患者の場合、相互作用によって薬効に影響してしまうのが、CYP独特の厄介な点です。
たとえば、1つの薬物が特定のCYP酵素を阻害すると、その酵素によって代謝される他の薬物の血中濃度が上昇し、副作用のリスクが高まる可能性があります。
また、代謝物が元の親化合物とは別のCYPを阻害するという例もあります。抗不整脈薬のアミオダロンがその代表例です。アミオダロン自体はCYP3A4で代謝され、CYP3A4を阻害もしますが、代謝物はCYP2C9やCYP2D6を阻害することがわかっています。
ですから、親化合物だけでなく、その代謝物まで考慮した上で、薬物相互作用を考えなければなりません。
酵素誘導・酵素活性阻害が起こる
一部の薬物はCYP酵素の活性を増加させることがあり、これを「酵素誘導」と呼びます。酵素誘導によって、ある薬物の代謝速度が上がり、そのために薬物の効果が減少する可能性があるのです。期待する薬効が十分に得られなければ、治療が失敗してしまうかもしれません。
たとえば、リファンピシンの服用によってCYP3A4が強力に誘導された結果、ワーファリンの効果が減弱し、血栓が生じてしまったなどの事例が報告されています。
また、逆に、CYPの活性を阻害するパターンも知っておかねばなりません。酵素活性阻害の形式には、大きく3種類あります。
CYPは基質特異性が低いことはお伝えしました。そのため、併用された薬物が同じCYP分子種で代謝される場合、代謝反応の競合が起こり、それぞれの反応速度が低下してしまいます。併用薬間でCYP分子種に対する親和性が異なるため、いずれか一方の代謝が阻害されることが多いです。親和性の高い薬物の血中濃度はほとんど変化せず、親和性の低い薬物の方は血中濃度が上昇します。
たとえば、オメプラゾールとクロピドグレルは、いずれもCYP2C19により代謝される薬物です。オメプラゾールはCYP2C19に非常に親和性が高いため、併用したクロピドグレルの活性体への代謝を45%も減少させてしまいます。
含窒素複素環を有するアゾール系抗真菌薬などは、ヘム鉄への親和性が非常に高く、第6配位子に結合することで、CYPを可逆的に阻害します。作用機序からすると、複数のCYP分子種を同時に阻害してしまいますが、実際にはCYP3A4とCYP2D6に対する阻害作用が強いです。
たとえば、イミダゾール環を持つシメチジンは、ワルファリンやトリアゾラム、フェニトインなどさまざまな薬物の代謝を阻害します。それにより、併用薬物の血中濃度が上昇し、血中濃度の上昇・中枢抑制作用・けいれんなどの副作用を実際に起こすリスクが高いです。
一方、シメチジンと同じH2ブロッカーであるファモチジンにはイミダゾール環はなく、CYP阻害作用もほとんどありません。同じ作用機序だからといって、同じようにCYPへ影響するわけではない、というのが難しいですね。
ある薬物によってCYPの活性が不可逆的に阻害されることもあります。
ある薬物がCYPにより代謝され、その代謝物がCYPの活性中心に共有結合するという、代謝依存的な阻害パターンが不可逆的阻害です。mechanism-based inhibition(MBI)とも呼ばれます。
阻害薬が体内から消失したあとも、酵素活性阻害の作用は持続するため、重篤な副作用の原因となるかもしれません。グレープフルーツジュースによるCYP3A4阻害も、このMBIに基づくものです。
こうした相互作用は、薬物療法の有効性・安全性に大きな影響を与えてしまいます。薬剤師として患者の薬物療法を管理する際には、これらの相互作用を十分に考慮しなければなりません。
薬物動態変化の程度は異なる
CYPの誘導や阻害などによる相互作用があると考えられる薬物の組み合わせだからといって、すべて併用を控えなければならないのでしょうか?
近年は、基質薬の血中濃度や臨床上のニーズ、重要性を考慮して薬物相互作用を管理するために、 pharmacokinetic interaction significance classification system(PISCS)という方法が提案されています。基質薬のクリアランスへの寄与率(CR)、阻害薬の阻害率(IR)、誘導薬によるクリアランスの増加(IC)に基づき、AUCの変化を評価する方法です。
まとめ
今回は、主要な薬物代謝酵素である「シトクロムP450(CYP)」について、その特徴をご紹介しました。
CYPによる薬物代謝は、薬物そのものだけでなく、代謝物によっても生じます。また、酵素が誘導されたり、阻害されたりすることで、薬物動態に変化が出る点も特徴的です。
CYPの発現や活性には個人差だけでなく薬物によっても差があり、相互作用がある組み合わせだからといって、すべてが臨床的に危険だということにはなりません。
今後、CYPについての特集記事を出していきますので、理解を深め、よりよい薬物療法を提供するきっかけとなれば幸いです。
参考
・日本医療薬学会. 医療現場における薬物相互作用へのかかわり方ガイド
・吉成 浩一. チトクロムP-450の阻害に基づく薬物相互作用. 日薬理誌(Folia Pharmacol. Jpn.)134, 285~288(2009).
